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2003/05/23 23:38:00 更新 |
NHK放送技術研究所一般公開レポート
21世紀のリモコン? “たまちゃん”
「たまちゃん」といえば、アゴにひげの生えたアザラシを連想しがちだが、技研の「たまちゃん」はちょっと違う。外観は“よくわからない生き物のぬいぐるみ”。でも、人の言うことを理解して、TVを操作してくれる便利なヤツだ
「たまちゃん」といえば、アゴにひげの生えたアザラシを連想しがちだが、技研の「たまちゃん」はちょっと違う。外観は“よくわからない生き物のぬいぐるみ”。でも、人の言うことを理解して、TVを操作してくれる便利なヤツだ。得意技は、飼い主の顔と音を認識すること。趣味はインターネットらしい。
謎のぬいぐるみ「たまちゃん」。ちなみに一頭身
たまちゃんの正式名称は「視聴者を認識する対話型テレビ受信システム」という。音声認識機能によってユーザーの言葉を理解し、地上波放送(7チャンネル)とBSデジタル放送(12チャンネル)のチャンネル切り替え、音量の調節や電源のオン・オフといったテレビの操作を代行する“対話型テレビエージェント”だ。
「BS/CSデジタル放送や地上デジタル放送など、いくつもの放送サービスを選べるようになったが、一方で受信機の操作は相変わらずボタンだらけのリモコンだ。ソースが増えたぶん、その操作は複雑化している」。お年寄りや機械が苦手な人でも簡単に使えるインタフェース技術。これを目指して開発されたのがたまちゃんだ。
たまちゃんの能力はそれだけではない。放送波で送られてくる番組情報とインターネット上の情報を組み合わせ、ユーザーの好みに合いそうな番組を「オススメ情報」として紹介してくれる。ここで役立つのが顔認識機能。ユーザーの顔を判別し、視聴履歴と照らし合わせることで、ジャンルや出演者が同じ番組を選び出すという。
「顔認識は、複数の視聴者がいる場合でも有効だ。例えば視聴者が2人なら、2人の好みに共通する番組をリストアップする」(説明員)。
しかも、このとき単純にBMLやHTMLのページを表示するわけではない。該当するページからテキストを抽出し、TV画面に適したフォント、画面サイズに合った解像度といった具合に成形し直すという。リンクのある場所には、すべて番号が振られ、リンクを辿る場合は音声で番号を指示するだけでいい。
たまちゃんが“常識”を持つ
しかしながら、現在の音声認識技術では、使う人に多少のコツが求められるのは周知の通りだ。また、家庭の中には雑音が付き物。必ずしも音声認識がベストのユーザーインタフェースとはいえないだろう。
このためNHK放送技研では、顔認識以外にも入力をアシストする仕組みを検討している。「ユーザーの視線・ジェスチャーといった情報や、人の持つ知識をデータ化した“知識ベース”を利用することで、視聴者の要望を推測できる仕組みを開発していく」。
例えば、番組一覧が表示されたとき、見たい番組をたまちゃんに伝えるには番組名をすべて読み上げなければならない。しかし視線入力を併用すれば、「番組名を見て“あれ”と言うだけで伝わる」。音声をトリガーとして、そのとき見ていた場所(番組名)が目的の番組と推測できる仕組みだ。
一方の知識ベースは、大学や研究機関が構築を進めている常識ベースを利用する方向で検討中という。常識ベースとは、さまざまな知識が存在するインターネットを1つの巨大なデータベースとして扱おうという発想から生まれた試み。ネットを介して知識を共有し、さまざまなサービスに利用することを目指している。例えば、Cycorpの「Cyc」は因果知識なども含めた大規模な知識ベースとして知られる。
「現在の知識ベースは研究段階で情報があまり公開されていないうえ、その多くは語学分野の知識や常識を中心としたもの。TVや関連する情報はない。こうしたTVエージェント開発のためには、TV業界が主導して知識ベースを構築する必要があるだろう」。しかし、これを対話型エージェントに応用できれば、例えば省略された言葉から内容を理解したり、流行を加味してオススメ番組を選択するなど、さまざまな展開が期待できるはずだ。
一見、“のほほ〜ん”とみえる「たまちゃん」。だが、近未来の重要なマンマシンインタフェース技術に成長する可能性を秘めている。
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