NHK放送技術研究所一般公開レポート
放送の多チャンネル化とデジタル化の波は、伝送すべき情報の量を飛躍的に増やし、近い将来の「チャンネル不足」が懸念されている。そこで登場するのが、1チャンネルで約50Mbpsの伝送能力を実現する「1024QAM」だ
2003年3月時点のデータによると、TV放送を受信している世帯の半分以上がCATVを利用しているという。しかし、放送の多チャンネル化とデジタル化の波は、伝送すべき情報の量を飛躍的に増やし、近い将来の「チャンネル不足」が懸念されている。これを解消する技術として、通信・放送機構(TAO)とNHK放送技術研究所が共同研究を進めているのが「1024QAM」(QAM:直交振幅変調方式)だ。 一般公開2日目に成果発表を行ったNHK放送技術研究所の中村直義氏は、まず「サービスの高度化と多様化の中で、今後はCATVの伝送容量が不足することが予測される」と指摘。1チャンネルあたり約49.2Mbps(理論値)の伝送能力をもつ1024QAMの技術と、最新の実験結果を公表した。 CATVでは、6MHzの周波数幅を1チャンネルとして利用しているが、770MHzまでの周波数帯を使う最新のCATV設備でも伝送できるのは約100チャンネルまで。1チャンネルの伝送容量は一般的なシングルキャリアの64QAMの場合で約30Mbps、一部で実用化が始まった256QAMでも約40Mbpsとなっている(記事参照)。 ![]() この場合、25Mbpsのハイビジョン映像を伝送しようとすると、1チャンネルには文字通り1チャンネルしか入らない。対して、1024QAMでは、1チャンネル分の帯域幅で2チャンネル分のハイビジョン放送を送信できることになるわけだ。 同じ帯域幅で伝送容量を増大させるには、「シンボルあたりのビット数を増やす」必要がある(多値化)。1024QAMでは、1シンボルあたり10bitの伝送が可能だ。 問題はコストとアナログ?NHK技研とTAOは、14bitという高分解能のA/D変換器の採用や精度の高い波形等化技術の開発などにより、1024QAM信号の受信機を既に開発。イッツ・コミュニケーションのインフラを使い、実証実験も行ったという。その結果、既存線路において「CATVのデジタル放送に適用できる品質で受信できることを確認した」(同氏)。 ただし、多値化は同時に“固定劣化”の増大を伴う。シールドされたCATVは、比較的雑音の少ない伝送路だが、それでも送受信機の位相誤差や伝送系の雑音などの影響は避けられない。これまでと同じケーブルを使って1024QAMによる高速伝送を可能にするには、「受信CN比で38dB以上という非常に高い数値が要求されることがわかった」。 ![]() つまり、1024QAMを使うには、送受信設備や機器の精度が高くなければならない。このため、技術的には確立されても、実サービスに向けてはコスト面の課題が残ると中村氏は指摘した。 また、アナログ放送(NTSC)が混在する場合にQAM伝送を行うと、隣接するチャンネルに干渉する懸念があるため、現在の64QAMでは送信レベルを意図的に引き下げている。1024QAMの場合は、現在よりも伝送レベルを上げてCN比を改善しなければならず、その実用化は“アナログのない環境”、つまりCATVのオールデジタル化を待つことになるという。 高速・デジタル多チャンネル放送時代のCATVに向け期待が高まる1024QAM。だが、実際のサービスが登場するのは5年以上先になる見通しだ。 関連記事![]() ![]() ![]() ![]() [芹澤隆徳,ITmedia] ![]() モバイルショップ
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