News 2003年6月9日 10:55 PM 更新

「無線もプロセッサに飲み込む」――Intel、次のシナリオ(2/2)


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 ただし、CMOS自体の駆動電圧が低いことによるパワーアンプの効率低下、シリコン上に実装した受動部品の性能劣化。さらには、同じ筐体に実装されているプロセッサの駆動周波数が、送受信する電波の周波数に匹敵することによるノイズ問題など、CMOSで無線を扱うには、さまざまな問題が残されている。

 この解決についてIntelは、デジタル回路による補正、インダクターやチップパッケージの改良などの工夫で品質の向上を目指すとしている。


CMOS回路で必要になる高速AD変換回路の試作品。現在この回路で100Mサンプル/秒を実現しているが、Intelは、最低でも200Mサンプル/秒の変換速度が必要と考えている。最終目標は1Gサンプル/秒だ

 先ほどのロードマップを見ても分かるように、Intelが進めているCMOS技術の導入では、同一チップで複数の無線規格に対応できる「ベースバンドの共有」技術が必須とされている。

 カーン氏から紹介された「RCA」(リコンフィギュラブル・コミュニケーション・アーキテクチャー)技術は、回路に柔軟性を持たせ、複数地域で異なる無線規格に少ないリソースで対応できるようにしたもの。

 プログラマプルなファームウェアを書き換えることで、回路内の構成を切り替えて、複数の無線規格に対応するようにしている。ベンダーにとっては、単一の回路を用意すれば複数の規格に対応したモジュールを供給できるメリットがある。

 なお、この技術はベンダー向けのもの。Intelによれば、モジュールを別な規格に切り替える場合、認証作業が必要になるため、エンドユーザーに公開する予定はないとしている。


RCAの一例として今回紹介された、メッシュ構成回路。この例ではIEEE 802.11a/b/gといった三つの規格に対応するため、五つのエレメントを使って回路を再構成する。実際の再構成は、フォームウェアを書き換えて使用するエレメントを切り替える

 今回の説明会では、無線ネットワークの利便性に大きく影響するアンテナの研究「スマートアンテナ」についても説明が行われた。

 データ通信でアンテナに求められる改善点は「通信距離」「収容容量」「データ転送レート」。一方アンテナの特性として、「起動直後は発生するノイズのためチャネル容量が低下する。また、移動時はアクセスポイントとの距離が変化するので、当然この場合もチャネル容量が変化する」(カーン氏)

 そのため、一定に安定した向上を目指すのではなく、時間とともに変化する特性はそのままに、全体的なチャネル容量を底上げするアプローチで研究が進められている。

 研究の短期的な目標は、通信距離を増大させるアーキテクチャーの実現。これには複数の指向性アンテナを組み合わせた「セクタ・アンテナ」や、複数のアンテナをアナログ的に結合させる方法が考えられている。

 長期的な目標として掲げられているのは、スループットを改善するアーキテクチャー。同一帯域で利用できるユーザーを増やすために、空間分割を行う「SDMA」や、複数のアンテナとアクセスポイントで、複数の無線LANデータパスを確立させる「MIMO」(マルチインプット・マルチアウトプット)が考えられている。


開発が行われている「セクタ・アンテナ」の実験結果。携帯電話基地局の技術をノートPCに応用したもので、4本の指向性アンテナから使える1本を選択して通信を行う。実験では方向や位置の変化による感度変動が大幅に低下し、利用可能レンジがほぼ2倍に拡大した

 カーン氏は、無線LANをめぐる、地域ごとに異なる法規制について、「現在、主要な国の法規制当局に対して積極的に働きかけを行っている。しかし、よりインターナショナルな場でのミーティングが必要と考えている。世界中で無線ネットワークの規制に対応しているIntelは、このようなインターナショナルな場面における調整役に最も適している企業だ」とコメント。ここでも、Centrinoモバイルテクノロジを始め、さまざまな無線LAN関連技術を世界中で展開するIntelの強みをアピールした。

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[長浜和也, ITmedia]

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