News:アンカーデスク 2003年8月19日 10:26 AM 更新

PSP、PSX、UMDの真の狙いは?――ソニー・久夛良木氏が解き明かす“点と線”(1/3)

PSX、PSP、UMD、さらには半導体への積極的な投資と、SCEはこのところ矢継ぎ早に意欲的な新製品や戦略を発表してきた。それぞれにどんな狙いがあり、それをつなぐとどんな構図が浮かび上がるのか。ソニー・久夛良木氏へのインタビューを元に、その点と線を探ってみた。
顔

 積極的な半導体製造設備への投資PSXPSPの発表、それに“オールソニー”との戦略融合に、東芝・IBMとの協業によるCELLプロセッサの開発。

 ほんの数カ月の間だけでも、ソニー・コンピュータエンターテインメント(SCE)は数多くの話題を提供してきた。SCEはこれから、何をやろうとしているのか?

 ゲーム機ベンダーの枠を飛び越えようとしているSCEの今後について、SCE社長兼CEOであり、ソニー副社長でもある久夛良木健氏に伺った話を元にしながら、いくつかのテーマに分けて彼らの考えているビジョンと現在、その点を結ぶ線を探ってみたい。

 まず初回はPSPとPSX、それにUMDについてだ。

PSPのスペックは“オーバーキル”ではない

 PSP、すなわち携帯型プレイステーションは、5月に米国で行われた「E3 2003(Electronic Entertainment Expo 2003)」でその開発計画が発表され、さらに比較的詳細なスペックが先日国内で開催されたの「PlayStation Meeting」で明らかになった

 プレイステーション2(PS2)を超えるプロセッシングパワー(R4000コア/333MHz)を持ち、同アーキテクチャー/同速度のメディア処理専用プロセッサ「Media Engine」を内蔵。ジオメトリ演算プロセッサを持ち、カーブドサーフェースをサポートする3Dエンジンに、16:9のワイド型TFT液晶パネルを装備する。

 加えてソニーがネットワークウォークマンで開発したリコンフィギュアブル(再構成可能)DSPを搭載。MPEG4/AVCに対応した動画デコーダ回路も内蔵する。また、これらの機能を統合した上で、混載メモリ(eDRAM)も同じチップの中に押し込める。

 アーキテクチャーやアプローチは異なるものの、視点によってはPS2以上の機能を1チップに詰め込んだ形だ。E3の発表時点では、多くのアナリストや報道関係者が、PS1の改良型を携帯型にしたものだと思い込んでいた。任天堂のゲームボーイ、ゲームボーイ・アドバンスが、同様の手法でソフトウェアを増やし、成功したからだ。

 しかしPSPは、開発のフレームワークこそ、初代プレイステーション(PS1)に近いアプローチを取り、PS1からの移植性は比較的高いと考えられるが、ハードウェア面の機能や性能は驚くほど高くなると予想される。一部では「オーバーキル(過剰スペック)では?」との意見もあったが、久夛良木氏は「われわれが考えているコンテンツを実現するには、これだけのハードウェアがどうしても必要だった。決して過剰スペックではない」と話す。

 ポータブルにも据え置き型と同レベルのコンテンツを提供し、ユーザー体験として十分に高いレベルを実現するためには、PSPのこの仕様は「過剰」なものではなく、「必要不可欠」なものというわけだ。

 ただし「ポータブルとなると、アイディア勝負のさまざまな遊びを考え出すことが可能だ。だから(PS2のようにハードウェアの能力をしぼり取るような開発アプローチではなく)、PS1の時のようにハードウェアの機能を隠ぺいして、ライブラリ経由でアクセスする手法を採用した」(久夛良木氏)という。

 これらを実現するためには、90ナノメートルの製造設備が必要となる。「PS2だけのためならば、初期の歩留まりや製造可能なチップ個数などから考えて、90ナノメートルプロセスを立ち上げる必要はなかった。不必要なプロセスに投資をしても、何も良いことはない。われわれが90ナノメートルに向かった理由は、PS2チップセットのシュリンクに加え、PSPで90ナノメートルが必要になるからだった」(久夛良木氏)

 では、なぜ今、PSPなのか?

新しいコンテンツ流通の道を創り出すUMD

 これは推測だが、一つにはSCEが必要と考えているゲームソフトのクオリティを出せる携帯型ゲーム機が、技術的に実現可能になったことが挙げられる。90ナノメートルプロセスの立ち上げやバッテリー技術、ディスプレイ技術、それにそれらを採用するためのコストなどの要件が交差するタイミングが「2004年末」という判断である。

 もう一つは、据え置き型プレーヤーで再生するデジタルコンテンツの流通量が飽和状態に近くなってきていることが挙げられる。久夛良木氏は「DVDのコンテンツビジネスは、これ以上ないほどに大きくなってしまった。これから先、大きな伸びを期待することはできないだろう」と話す。

[本田雅一, ITmedia]

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