News 2003年10月7日 11:30 PM 更新

「ソニー」ではなく「IT戦略会議議長」出井氏の基調講演

CEATEC JAPAN 2003の冒頭を飾る基調講演に出井伸之氏が登場。満席の会場にむけて「IT戦略会議議長」の出井氏は「国際水準の変革速度」を訴えた。

 「ソニーの会長として話ができると思ったら“IT戦略会議の議長の出井”として話して欲しいとのこと」という台詞で始まった基調講演は、出井氏が議長として携わった「IT戦略会議」の歩みを中心に進んでいった。

 当時の小渕総理から要請された経営戦略会議への参画依頼をいったんは断った出井氏が、「その直後に小渕さんが亡くなられて、次の森総理から頼まれたときに小渕さんから押されるように感じた」と議長を引き受けたIT戦略会議。

 「森さんはITを“イット”と読んだと噂されていますが、確かにITのことはまったく知らなかった。そんな森さんに“とにかくインターネットはIPv6”と言ってください、と指導した」と、出井氏は当時のエピソードを交えながらIT戦略会議の成果を紹介していく。

 「誰もがインターネットを使えるように」インフラの整備を第一の目標としたフェーズIで、数値目標として掲げたのが「予算3000万円」。その確保した予算で「光ケーブルを敷設し、インターネット接続環境で米国を抜く」(出井氏)を目指したが、「その努力と競争原理がのおかげで、速くて安い常時接続のブロードバント環境が爆発的に普及した」のが、フェーズIの成果であると出井氏は主張する。


出井氏の講演は、端々に挟み込まれる「一言」が実に面白い。今回のスピーチでもいろいろな「一言」が飛び出している


「インターネットが普及すると、マイクロソフトがUターンしてきて“我々はインターネットを独占する”……、いや言葉が過ぎました。“強い影響力を持つ”と言うようになったのですが……」

 ハードウェア中心にインフラの整備を進めてきたフェーズIに対して、「個人のメリット」にフォーカスをあてたフェーズIIでは、「医療」「食」「生活」「中小企業金融」「知」「就労・労働」「行政サービス」の7分野で共通のITサービス基盤を構築するように、今年の5月に提言をまとめ、小泉首相に提出している。

 この提言では、各分野を管轄する縦組織の行政機関を「共通情報サービス基盤」という横の棒で横断するのが特色となっている。「インターネットを導入し始めたころは、どこも縦割りの組織ごとに独立したシステムを立ち上げて、みんな挫折している。しかし、日本の組織は縦の線が非常に強く、なくそうとして縦の数を減らしても、少ない縦の線が太くなるだけ。ならば、縦の組織を残しておいて横方向に共通の基盤を構築するしかない」と出井氏は語る。


IT戦略会議フェーズIIで提言した共通サービス基盤の概念図。この提言では、情報サービスを先行して導入すべき7分野を抽出し、それぞれの分野を管轄する組織を横断した「5分野の社会基盤」を整備する

 IT戦略会議の話題の合間には、日本における半導体産業の現状についても分析を行っている。「日本の半導体技術はVHSとベータが争っていた時期がピーク。それまで垂直展開をしてきた日本の製造業は、PCで全世界的に展開した水平分業に対応することができず、後退していった」(出井氏)

 製造業は「利益を出すモデルを作らないといけない」と考える出井氏からは「今はフォーマット競争をしている場合でない」と、記録型DVDの現状を意識させるような発言も飛び出してきた。

 出井氏は、CEATEC JAPAN 2003のテーマである「ユビキタス」についても「ユビキタス社会の前にもう一歩ステージが存在する」と言及する。

 「ユビキタスの社会はハードウェアだけの社会ではない。便利な面もあれば個人の生活が見られてしまうという怖さがある。しかし、社会は確実にその方向に進んでいく」というユビキタスコンピューティングは「2005年に大きな変換点を迎える」と出井氏は述べている。

 「変化のスピードは速くなる一方。しかし、日本の変化の速度は遅くて危機感が乏しい。政治や市場、国民の意識の変化を国際的なスピードにしなければならない」と意識改革を求めるメッセージで基調講演を締めくくった。


日本が得意としてきた垂直展開構造と、PCで示された全世界的水平分業展開。しかし、ソニーは内部パーツを自社で調達する「垂直展開」で商品力を高める方針を現在推進している

 さて、会場でこの基調講演を聴いた参加者、もしくはこの記事の前半を読んだ読者のなかには「どこかで聞いたような話」と思った方がいるかもしれない。

 実は、今回の基調講演は、7月の「日立ITコンベンション」で出井氏が行ったスピーチとほとんど同じ内容。記者は、偶然にも両方の講演を聞くことになったのだが、登場するエピソードも、それを聞いて聴衆が笑うタイミングも、7月の基調講演とまったく同じだったりする。

 IT系イベントが乱立している状況にあって、今年はとくに「ユビキタス」「RFIC」「地上波デジタル」とテーマも展示も「似かよったもの」になりつつある。

 メインテーマに「ユビキタス」を打ち出したCEATEC JAPAN 2003の冒頭を飾る基調講演の内容までが、過去のITイベントと「似かよったもの」であったことに、記者はいろいろ憶測してしまうのだが、やっぱりそれは「余計なこと」なのだろうか。

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[長浜和也, ITmedia]

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