News 2003年10月30日 09:12 PM 更新

“スタンダードを裏切る製品作りも楽しい”──ThinkPadが見つめる進行方向(1/2)

PCがますます均質化する中、伝統のThinkPadは何をアイデンティティに据えるのか。開発の最前線で陣頭指揮をとる小林氏が近未来のThinkPadを語る。

 一部機種を除き、日本アイ・ビー・エム(IBM)大和研究所(神奈川県大和市)で企画・設計されてきたThinkPadシリーズ。そのコンセプトや開発の方向性などの面で指揮を執ってきた米IBMフェローの内藤在正氏が、10月1日に米国ラーレイの研究所に異動した。その後を受けてThinkPadシリーズ全体の開発指揮を担当する事になったのが小林正樹氏(日本IBMポータブル・システムズ担当−IBMディスティングィシュト・エンジニア)だ。

 小林氏はThinkPadシリーズの進化の方向を決定し、全体のアーキテクチャーやコンセプトをとりまとめていく。もっとも、同氏はこれまでも内藤氏と共にThinkPad技術陣のトップにいたというから何かが急に変化するわけではない。しかし、何らかのビジョンは持っていることだろう。

 同氏の生み出してきたコンセプト。そしてこれから目指そうとしている新しいコンセプト。その両面について話を伺いながら、将来のThinkPadの方向性を探ってみたい。

現行機の流れを作った「570」以降

 IBMフェローの内藤氏がコンピュータシステム全体の技術開発を担当していたのに対して、小林氏はもともとディスプレイ部の技術者だったそうだ。CRTや液晶ディスプレイの技術者としてIBMのPCに関わり、「PS/55note」やThinkPadの立ち上げに参加した。さまざまなオプション類、ドッキングステーションなどの拡張ユニット、動画アクセラレーターやMPEGデコーダの開発にも携わったという。

 その小林氏が製品のコンセプト作りに関わったのは、1999年発売の「ThinkPad 570」で開発マネージャを務めたのが最初だった。そしてその後、歴代Tシリーズ、Aシリーズの開発に携わったほか、「X」「T」「A」と異なるフォームファクタ間で周辺機器や使い勝手などを統一した、2000年のThinkPadフルモデルチェンジにおいて、シリーズ全体を見渡したプラットフォームアーキテクチャーの構築を担当している。


1999年発売のThinkPad 570。当時としては大型の13.3インチLCDを搭載していた。CPUはモバイルPentium IIの366/333MHz

 実はこのフルモデルチェンジ、そしてその試金石となったThinkPad 570に、小林氏の開発コンセプトの基礎となる部分が見えてくる。それはThinkPadシリーズ全体の互換性やアイデンティティの統一である。

 「最初に担当した570は、560の後継という位置付けでしたが、その一方で将来のTシリーズへと繋がるコンセプトを埋め込みました」と小林氏。

 それまでThinkPad各シリーズの間で考慮されていなかった互換性に目を向けた。液晶パネルを留めるラッチの位置が機種ごとに違ったり、電源スイッチの位置が統一されていなかったりと、さまざまな部分で機種ごとに意匠の違いがあって、特に企業顧客からクレームが上がっていたそうだ。

 これは周辺機器に関しても同じで、機種が違えばオプションも異なるのが当たり前だった。570には充電器やACアダプタなどにその解決作の一部が反映されている。現在でも570用ACアダプタは同じ電力のアダプタで動作するXシリーズで利用可能。動かすだけならば、どの機種にもつなげることができる。

 こうしたコンセプトをシリーズ全体に反映させるため、小林氏はThinkPadシリーズのフルモデルチェンジにおいて、従来製品との互換性や位置付けなどを考慮せず、全く新しい製品ラインナップを計画。真っ白なキャンバスの上に、共通コンセプトを実現するプラットフォームを定義した。そのプラットフォームの上に作られたのがX、T、A。アルファベットが型番数字の前に付く新しいシリーズである。

 新シリーズはドッキングステーション、ポートリプリケータ、ホットスワップ可能なドライブベイ、ACアダプタ、バッテリー充電器を統一。キーボード配列や電源スイッチの位置、ボリュームボタンの装備と位置、ミュートボタン、キーボードを照らすThinkPadライトなど、現在のThinkPadシリーズの基礎となるDNAが組み込まれた。

 「バッテリーの共通化まではできなかったが、バッテリーコネクタは共通化し、同じ充電器を利用できるようにした。周辺機器の共通化は企業、個人を問わずニーズが強い。特にXとTは、同じ企業が導入して社員に選ばせる場合が多い。このため現行シリーズではXとTのアーキテクチャを可能な限りそろえ、インストールイメージもほぼ同じにした」(小林氏、以下同じ)。

 このほか、570に現在のXシリーズに名残が残る“スライサ”というコンセプトを導入したのも小林氏だった。スライサは2スピンドルノートPCを薄くスライスするように分離するドッキングメカニズム。底面を少し窄ませ、ドッキングしやすく、かつスマートに見える本体部の意匠も、このときにほぼ完成している。ドッキング時の厚みは、当時あったThinkPad 300系のモデルと同じだった。


570はドッキングステーション「ウルトラベース」が標準で付属した。ウルトラベースにはDVD-ROMやセカンダリHDD、スーパーディスク、Zipなどの各種オプションドライブを換装できた

進化の速度が鈍る中で

 もっとも、企業向け、あるいはビジネス指向のパーソナルユーザー向けとして独自のスタイルを築いてきたThinkPadとはいえ、近年はその独自性が徐々に失われてきている。セキュリティチップ内蔵、細かなファームウェアのアップデートや動作確認が取られたドライバの提供、豊富なオプション類などのアドバンテージはあるが、他社との違いはユーティリティやセキュリティソリューションなど自社開発のミドルウェアによる差別化への依存度が高くなっているようにも見える。

[本田雅一, ITmedia]

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