News 2003年10月30日 09:12 PM 更新

“スタンダードを裏切る製品作りも楽しい”──ThinkPadが見つめる進行方向(2/2)


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 「近年のPCはCPUとチップセットのベンダー(Intel)がプラットフォームの図面を引いています。このため、どのベンダーでも同じ製品になりがちで、以前ほどの進化ペースを維持できなくなってきました。これはIBMも例外ではありません。IBM全体としても、テーマはハードウェアの機能や性能ではなく、顧客のTCO削減をいかに削減するかがテーマです。しかし、ThinkPadの開発部隊としてはTCO削減だけでなく、ユーザーにハードウェアの性能や品質を実感してもらえるモノ作りをしなければならないと思っています」。

 その成果は、急にいくつもが登場するわけではない。しかし、例えば先日発表のT41、R50に搭載された「ハードディスクアクティブプロテクション」などは、ユーザーに対して直接メリットを提供できる機能と言えよう。この機能はPC本体に加速度センサーを組込み、センサーが過大なGを検出すると自動的にHDDのヘッドを待避させるというものだ。


HDD耐衝撃機能を搭載したT41

 「PCのプラットフォームは、これから大きく変わろうとしています。ノートPCで言えば、シリアルATAやPCI Expressといった機能が今後1年ほどで実現されるでしょう。しかし、現状のシリアルATAはパフォーマンス面で優れたところはないんです。その上、消費電力も多くノートPCには向かない。しかし、プラットフォームの図面を引く側がそこに向かうというならば追随しなければならない。ならば、部分的には後退する要素もある中で、どうやって付加価値を上げていくのか。そこに近未来のThinkPadが進む道があると思います」

独自性のカギは「入出力デバイス」

 その一方で「ハード屋の見せ場は、今はあまりありません。今は業界標準を取り入れないとお客さんの要求に応えられないからです」と話す小林氏だが、その話の中にはまだまだチャレンジしたいテーマが数多く存在するようだ。

 「例えばウイルススキャンは必要だけれど、動き始めると速度が落ちて不快なものです。ではスキャンの速度を上げるにはどうすればいいのか? ノウハウを持たないユーザーがどんな場面で不快さを感じるか、ユーゼージモデルをきちんと考えて、そのフォローを自動的に行うようにしたいと考えています。それはハードウェア、ソフトウェア両面からのアプローチです」。

 「もう一つはディスプレイの品質でしょう。一部のベンダーは既に液晶パネルの品質を全面に打ち出していますね。明るさ、応答速度、視野角、発色など、ノートPCのディスプレイに不足している要素はたくさんあります。次世代のThinkPadといっても、クラムシェル型の現行フォームファクタを続ける限りは似たような外観になります。その中で独自性を出せるのは、入力デバイスと出力デバイスだと考えます」。

 実際、これまでもFlexViewのブランドで、IBMは高品質の液晶ディスプレイを搭載するモデルを提供してきた。近年はIPS液晶を用いたノートPCも珍しくないが、当時としては画期的だった。また、新モデルのR50ではFlexView搭載モデルの低価格化にも成功している。

 「もっとも、業界全体の方向が定まっているとしても、PCプラットフォームのスタンダードを作っているベンダー(筆者註:おそらくIntelのこと)の予想を裏切る製品を作るのも楽しいものです。熱処理技術などは、設計パートナーと言えども外部にはノウハウを出さないようにしていますから。

 例えば、メインとは異なるサブプロセッサを組み込んで、その上に独自の新しい機能を搭載するなどのアイデアもあります。個人的にはTRONベースで、PCを補完する機能を組み込んでみたいですね」。

 少々断片的な話が多いが、もう少し具体的なところでThinkPadの近未来は見えないものだろうか。たとえば最初のX、T、Aが生み出された時のように、真っ白なキャンバスに描く新しいプラットフォームへの切り替えは、いつ頃あるのだろう。

 「PCI ExpressがノートPCに入る段階で、ThinkPadのベースアーキテクチャーを変えるというのが妥当な線ですね。少なくともAlviso(Intelの次世代モバイルチップセット)の次ぐらいには、新しいアーキテクチャーになると思います。ただ、急ぎはしません。適切なタイミングで、新アーキテクチャーの長所が生きるよう、過去をバッサリと捨てて新しい世界に挑戦します。PCI ExpressとシリアルATAを軸にした斬新なものにしようと思いますが、デバイスがきちんと揃うタイミングでないといけません」。

次の「X」は軽く、薄く

 最後にもう一つ、小林氏は興味深い話をしてくれた。それはIBM社内の意識変化である。ThinkPadシリーズはワールドワイド共通モデルで、日本だけの小型モデルは存在できない。このため、小型・軽量化の方向は否定され、拡張性・機能性が優先されている。Xシリーズが、12.1インチクラスでは少々重めな理由でもある。

 「ところがバッテリー持続時間が徐々に長くなり、操作性もこなれてきた昨今、IBM社内でもXシリーズを選ぶユーザーが増えてきた。以前はTシリーズばかりだったIBMのエグゼクティブがXを持ち歩き、『軽い方がやっぱりイイね』と言う。日本でXシリーズの人気が高いこともあって、Xシリーズに関しては日本の要求が通りやすくなっています。ですから、軽く、薄くしたいですね。次のXは」。


日本のユーザーからは惜しまれながら姿を消したs30(左)と現行のX31

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[本田雅一, ITmedia]

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