「まずはお互い分かり合うこと」「後退ではない」──三木谷社長
楽天とTBSが提携の協議を始めることで合意したが、楽天は経営統合案を一時撤回した。三木谷社長は「物事は実現しないと意味がない。後退ではなく、非常に大きな前進だ」と評価した。
楽天と東京放送(TBS)が業務・資本提携に向けた協議を始めることで合意した11月30日(関連記事参照)、楽天の三木谷浩史社長は都内で会見し、「前に進むことが重要だ。まず相互理解を深めた上で、何ができるのかを話し合うということだ」と話し、経営統合案の一時撤回は「後退ではない」ことを強調。「実りある業務提携を実現するため、楽天グループ全力を挙げて真摯に協議してきたい」と語った。
両社の合意では、「放送とインターネットの連携」を目指す業務提携の検討を始める。具体的には(1)オンライン放送、(2)番組連動型EC、(3)ポータルサイトを起点とした新事業展開、(4)その他──の4点を話し合う。具体的な検討は「業務提携委員会」で行い、楽天側は三木谷社長がリーダーとして協議に臨む。
三木谷社長が目指す「放送とインターネットの融合」が「連携」と一歩後退したのは「あえてそうした」(三木谷社長)。直前に会見したTBSの井上社長は「放送と通信は『融合』ではなく『連携』するものだと思っている」と述べており(関連記事参照)、TBS側に譲歩した表現とみられる。
合意内容を記した覚書の調印は三木谷社長とTBSの井上弘社長が行い、みずほコーポレート銀行の斎藤宏頭取が立ち会った。三木谷社長によると、三井住友銀行の西川善文前頭取も仲介に動いた。西川前頭取は楽天の相談役とTBSの非常勤監査役を務めており、「個人的な立場」(三木谷社長)で両社の間に立ったという。
「物事は実現しないと意味がない」
TBS側が難色を示していた共同持ち株会社方式による経営統合は、楽天がいったん取り下げることで合意。来年3月末までの予定の協議期間中、楽天が持つTBS株式19.09%のうち10%以上の分については、議決権も移動する有価証券管理信託方式でみずほ信託銀に信託する。
TBSに経営統合を迫っていた従来からは後退した印象だが、三木谷社長は「物事は実現しないと意味がない。10月13日から50日間、話し合いもせず対決姿勢のままなのは両社にとっていいことではないと感じていた。方向転換と言えばそうかもしれないが、まずは分かり合うことが重要だ」と話し、目的達成に向けた「非常に大きな前身だ」と胸を張って見せた。
TBSは他社と連携したネット事業の開始を相次いで発表しており、井上社長は会見で「各社と等距離で付き合っていく」と話した。これに対し三木谷社長は「垂直統合がいいのかという問題。TBSが楽天とだけやっていくのは良くないだろうし、TBSが他社とやっていくのは株主としてもいいと思う」と“オープン”な姿勢を示した。
その上で、「われわれは新しいビジネスモデルを考えようと言ってきた。それが可能ならTBSが他社とやってもいいし、楽天もTBSとだけというわけにはならない。それが(楽天が目指す)メディアコングロマリットだろう」と述べた。
提携が不調に終わった場合のTBS株買い増しの可能性については「これから協議を始めようというところ」として語らなかった。
「球団の問題で親会社の事業戦略に影響出るのは不合理」
会見での主な質疑応答は以下の通り。
──合意内容は楽天側にとって後退に思えるが。
三木谷社長 経営統合とは別の形の提携も検討するとずっと言ってきた。われわれはベストだと思って経営統合を提案したが、とにもかくにもお互い分かり合えないと話が進まないのでいったん取り下げ、相互理解を深める。前に進むことが重要だ。後退ではなく、何ができるのかをこれから話し合うということだ。
──TBS株の含み損についての認識は。
三木谷社長 短期の上げ下げでどうこうという認識はない。TBSは将来性の高い企業だと思っている。
── 楽天の増資は難しくなったのでは。
三木谷社長 増資云々はマーケットにインパクトあるので言えない。信託で議決権は信託銀に移るが、配当は入ってくるし、その配当収入は借入金の金利負担より多い。
──TBSは協議に半年程度はかけたいと言っているようだが。
三木谷社長 協議の開催頻度などはこれからの話しだが、両社の誠意をもっての協議なので、1カ月に1度とかではなく、提携の実現に必要な頻度になるだろう。
──問題の複雑化の原因の1つに、楽天とTBSが持つプロ野球団の問題もあった。
三木谷社長 野球協約自体に問題がある。球団の問題で親会社の事業戦略に影響が出るのは不合理だ。協約は不正な試合を防ぐためのものであり、楽天が横浜ベイスターズに八百長を行わせるよう働きかけることはとても考えられない。形式論ではなく、実質論で考えるべきだ。
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