「Web2.0はもう古い」――グリーが携帯SNSでKDDIと手を組む狙い
Web2.0と呼ばれるようなサービスを5年前から手がけてきたグリーの田中社長にとって、「ロングテール」も「チープレボリューション」も過去のもの。次に“来る”のは携帯向けネットサービスと語る。
SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)「GREE」を運営するグリーは7月31日、KDDIと提携し、携帯電話向けSNSの共同構築を検討すると発表した。KDDIはGREEの第三者割当増資も引き受け、3億6400万円を出資した。
グリーの田中良和社長は「PC向けサービスを前提としたWeb2.0はもう古い。今後1〜2年は携帯の使い方がガラッと変わり、携帯のWebビジネスが拡大するはず」と確信を持って語る。
「『ロングテール』とか『チープレボリューション』(情報発信にかかるコストが劇的に安くなる)とかいう話は、ぼくの中ではは2004年ごろに熱かった。もう過去のもの」――田中社長はWeb2.0のキーワードをこう切り捨てる。
確かに田中社長は、Web2.0と呼ばれているようなサービスに5年も前から取り組んできた。楽天に在籍していた2001年にブログ(日記)サービス「楽天広場」を立ち上げ、2003年には「楽天アフィリエイト」構築にたずさわった。楽天社員を続けながら、GREEを2004年にオープン。2005年に起業するまで、1人で運営してきた。
ブログやアフィリエイト、個人の力を集めたWebサービスなどが、Web2.0というキーワードの登場とともに脚光を浴びている。だが彼にとっては、過去に通った道に今になって光が当たっているに過ぎない。「Web2.0は、過去に起きたことのまとめ。もう終わった話なんです」
では“次”に来るサービスは何か――田中社長はここ1年、考えてきたという。キーとして浮かび上がったのは「人の変化」だ。「ネットを使う人間が変化した。5年前には想像も付かなかったほどたくさんの人が日常的にブログを書き、アフィリエイト収入を得るようになった」
女子高生が当たり前のようにブログを更新し、主婦がアフィリエイトで月30万円の収入を得る。「数年前、『ブログは日記なのか?』なんて真剣に議論していたころがバカバカしくなるくらい」、ネットを使う人が急激に増え、ネットに対する意識も変化している。
「5年後、10年後は、全人類がブログを持つとか、教科書の代わりにWikipediaを使うとか、奨学金はアフィリエイトで返すのが常識、とか、そんな世界が来てもおかしくない」。冗談っぽく語るが、ありえないとは言い切れない。
「今までは、『日本のネットユーザーはこんなものだ』という像があったが、これからは1億2000万人全員がネットユーザー。普段の生活の中で、いつでもどこでも誰でもネットを使うという時代が来る」
誰もがネットユーザーという新時代。これを支える情報ツールは、PCではなく携帯電話だろう――田中社長はそう展望する。
携帯Webの可能性
総務省の調べによると、2006年3月末の国内の携帯電話加入者数は9000万以上。普及率はPCよりも高く、1人1台持つのが当たり前になりつつある。昨年末の調査では、ネット接続端末として携帯電話を利用している人がPCを初めて上回り(関連記事参照)、“携帯でネット”が存在感を増している。
携帯からブログを更新したり、携帯小説を読むといったライフスタイルが、若年層を中心に広がっており、GREEも携帯からのアクセスが増え続けているという。
29歳の田中社長にとって、携帯からネットにアクセスするのは「面倒なこと」だが、一世代下の若者にとっては当たり前だ。「ぼくたちの世代と、中学のころから携帯に親しんでいた今の25歳以下との間に、断層ができている」という。
例えば、同社のインターンに参加した21歳の学生は、中学生のころからモバイルサイトを作り、広告を売っていた。「ぼくが高校生の頃、寝ないでネットをやっていたのと同じような体験を、若い世代が携帯で再現し、感性を体得してる」。携帯Web新時代の胎動が、確かに見える。
環境も変化している。KDDIはGoogleと提携し、ポータルにGoogle検索を組み込む。ヤフーの井上雅博社長も「携帯サイトをオープンにしたい」と語っている。キャリア公式サイト中心のクローズドな世界だった携帯Webが、インターネット的オープンさを身につけつつある。
検索が普及し、公式サイト以外に簡単にアクセスできるようになれば、携帯Webはさらに豊かになるだろう。広告を中心としたPC向けネットビジネスの手法も、そのまま応用できるようになりそうだ。「今の携帯広告のマーケットは、PCのネット広告で言うと、ADSLが始まるか始まらないかのころの規模。今後伸びていくだろう」
携帯SNSで「最初の成功例」目指す
KDDIとの提携は、GREE側から申し出た。KDDIは「SNS経由での拡大が見込めるデジタルコンテンツやEコマースを発展させたい」としている(関連記事参照)。
具体的なサービス内容は未定としているが、auユーザーに特化したクローズドなサービスではなく、3キャリア向けのオープンなサービスを構築する計画だ。
日本は携帯電話向けネットサービス先進国。「日本でやれば成功しやすいはずなのに、どこもまだ本格的に取り組んでいない」――キャリアと共同で取り組むことで、いまだに成功例がないという携帯SNSの世界で、世界初の成功例になりたいと意気込む。
いいサービスを継続的に作れる会社に
PC向けのGREEの登録ユーザー数は35万人。ほぼ同時期にサービススタートし、先日500万ユーザーを突破した「mixi」に大きく水を空けられた。個人運営から起業、法人運営と変わっていく過程で、サービス強化にうまく力を注げなかったのが“敗因”と、田中社長は分析する。
「誤解を恐れずに言えば、いい会社を作る方がいいサービスを作るよりも難しい。会社を作りに注力する中で、いろいろ至らないところがあり、他の会社のサービスの方がいいと評価されることもあったかもしれないが、それはそれで仕方がない」
グリー起業からまだ1年半。スタッフは20人以上に増えた。会社作りはまだまだ発展途上だ。「5年、10年と、いいサービスを作り続けられる土壌を作り、ミクシィやはてな、ドリコムなどといった先輩企業に早く追いつきたい」
目標は、日本の1億2000万人全員が使うサービスを作ること。KDDIとの提携は、そのための1歩だ。
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