技術を制す者がネット金融を制す:Web2.0と金融の接点――SBI北尾社長に聞く(後編)
「SBIは金融業ではなくネット業」――北尾社長はSBIをこう位置づけ、新技術への対応が重要と説く。今注目しているのはモバイルとポイント制度。「モバイルの時代が来る」と語る。
ぼくはいろんな金融業をやっているけど、金融業だと思っていない。本質はネット業だ。
普通の銀行は、システムが止まっても、人さえいれば、電話さえあれば、お客さんさえ来てくれればまだ商売できる。だがわれわれは、ネットが止まるとその瞬間から一銭の商売もできない。
Webの世界が、今の経済のシステムを変えるかもしれない。インターネットの技術は日々進化していて、まだまだ進化する。進化する技術をうまく使えばお客さんを飛躍的に増やすことができるし、そうしない所はどんどん遅れていく。
技術を制す者がネット金融を制す
技術はどんどんと新しくなるから、技術を得るための方法を常に考えている。(検索技術を得意とする)ソフトバンクRoboをソフトバンクから買収したり、インターネット総合研究所(IRI)の完全子会社化も発表した。ただIRIの子会社化は、今どうなるか分からないが。(注:経営統合は16日にいったん中止を決定、インタビューはそれ以前に行われた)
われわれはインターネットの進化の方向を見据え、人より早く動く。例えば2002年に始めたアカウントアグリゲーション(複数の金融口座をネット上で一覧表示できる仕組み)は、SBIテクノロジーに技術を開発させた。
当時のアカウントアグリゲーションは、銀行側にサーバがあり、銀行がユーザーの口座情報をすべて見られる仕組みだった。だがそれはユーザーとして嫌だと思ったので、銀行側にサーバを置かず、クライアント側にサーバを置く仕組みをいち早く開発した。この仕組みは今、Yahoo!ファイナンスに入っている。
モバイルの時代が来る
これからは携帯がメインの世界になる。金融のイメージも変わっていくだろう。
今までの金融は、業態によって縦割りだった。銀行法上の銀行、証券取引法に基づいて活動する証券会社――と、みんな法制度で分けられていて、物理的な場所も分かれている。だから、1人の人が銀行に行ったり、証券会社に行ったりしなくてはならない。
ところが今やインターネット上で、すべて携帯でワンストップで決着が付く。「おサイフケータイ」といううまい言葉をNTTドコモの夏野(剛)さんが使われたが、携帯であらゆる金融商品が提供できる。携帯さえあれば、お金に触れ合うことなく通常の生活ができる、という世界に入ろうとしている。
当社はこういう世界をいち早く取り込んでいく。ソフトバンクとも金融ポータル開設に向けて動いているが、携帯から利用できるようにする。ソフトバンクモバイルには千何百万人のお客さんがいるから、これを利用しないという手はない。
「ポイント経済圏」が社会を変える
「ポイント経済圏」に興味を持っている。今はポイント発行体が規定を設けていて、JALが発行したマイレージはANAでは使えないような仕組みになっているが、ANAとJALのマイレージも交換できればいい。ポイントは流動化させるべきだ。
ネット上でポイントが通貨のように行き交えば、ポイント発行主体は通貨を供給できるのと同じこと。さまざまな企業が信用創造できるということだ。そんな世界ができれば、大変おもしろいことになる。
ポイントの交換比率を決めるマーケットのようなものを提供したい。例えばイー・トレードが株主優待をポイントで発行し、ネットバンクを通じてお金に換える、ということもありえる。しかもお金は電子マネーにし、携帯電話で処理できるようにする。すると株主優待の電子マネーで電車に乗ったり、買い物できるという世界ができてくる。
ポイント経済圏は社会を変えるだろう。例えば税金。今の法制度上ポイントは贈与税の課税対象にならない。ポイントが世界中を行き交うことになれば、為替もある意味関係ない。こういう世界を作っていくことが、われわれが考えるこれからのインターネット金融業だ。
「P2P消費者金融」も
ネット金融のビジネスのネタはたくさんある。例えば、お金を貸したい人と借りたい人がそれぞれ条件を設定し、リスクを取ってお金を貸し借りするサービス。P2Pの発想を金融に広げたもので、ネットオークションと同じようなサービスだ。こういうビジネスが英米で伸びていて、ぼくも近々に始めたいと思っている。
今、消費者金融が壊滅的にガタガタになってきているから、こういう形で変えていきたい。こういうビジネスはネットカンパニーしかできない。
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