無職から社長に――「字幕.in」が会社化(2/2 ページ)
動画に字幕を付けられるサービス「字幕.in」が株式会社になり、開発した矢野さとるさん(25)は無職から社長になった――が、「事業が落ち着けば社長の座を誰かに譲り、無職に戻りたい」と本気で思っている。
資本金50万円の小さな会社。ベンチャーキャピタルの力を借りず、個人で設立することもできたかもしれない。
「でもぼく、書類を書くのが苦手で……。だからGMOさんに会社設立に必要な書類をZipで固めて送ってもらったり、持ち物リストを作ってもらったんです。それがないと、できなかったと思います」
矢野さんのほかに役員1人と、インターンが1人入る。インターンは同じGMOグループの家入一真・paperboy&co.社長。同じ福岡出身で親しい間柄で、インターンとして入るのは、ジョークのようなものだ。「サポートセンターで入ってもらうことになってます。とてもリスペクトしているので、一緒に仕事できるのが嬉しい」
オフィスはマクドナルドでもいい
資本金は50万円。1円から起業できる時代とはいえ、ベンチャーキャピタルが入って設立した会社としてはかなり規模が小さい。だが50万円で十分という。
「もともと個人でやってきたから、お金がぜんぜんかからないんです」。字幕.inはテキストを更新していくだけのサービス。動画はYouTubeなど外部のサーバを利用しているので、アクセスが集中してもトラフィックはそれほど大きくならず、サイトの広告収入だけでサーバ費用をまかなえる。独自の動画サーバもあるが、知り合いが働いている企業・ジオマックスから無償で借りているからコストはゼロだ。
オフィスにもお金がかからない。サービス開発はノートPC 1台あればできるし、ネット環境はイー・モバイルで十分。あとは携帯電話があれば、どこでもオフィスになる。
「1人でやっている限り、どこででもできます。自宅でもいいし、電源貸してくれるマクドナルド店舗もオフィスになるんじゃないかって真剣に考えています」
GMOのベンチャーインキュベーションプログラムで、渋谷のオフィスを半年間無料で借りられる。「オフィスはなくてもいいんですが、最初は“起業した感”を味わうためにオフィスに来ると思います。同じビルで働く家入さんとかいろんな人に会えるのが楽しいし」
社長の座はいずれ譲りたい
当面は社長として字幕.inを運営するが、いずれは誰かに社長を任せ、矢野さんは無職に戻れたらいいと思う。
飽きっぽくて、1つのことを続けるのは少し苦手。でも新しいものを思いつくとすぐに作ってしまう技術とバイタリティーは人一倍。無職の開発者としてsatoru.netで、面白いサービスを作っていきたい。
今年に入って、字幕.inのほかに、画像検索ページ「川の流れるように」や、自動検索エンジン「アンドロイド」など5つの新サービスをすでに開発している。
「ぼくが作ってきたサービスは、面白いからやってきたものが多くて、ほとんどがビジネスになりません。だから『このサービス、会社としてどうよ?』なんて言われる環境になるとやりづらくなる」
「面白いサービスを作っていく中でビジネスの話が来れば、その都度そのサービスだけを切り離して会社にし、ビジネス化する、といったような発展ができれば」
お金はサーバ代と猫のえさ代だけあればいいと、本気で思っている。
「やっぱりぼく、起業とか合ってないのかもしれません。でも、ぼくが起業したという情報を見て、また何か面白い話が来るといいな」
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