天から来る超高速インターネット 「WINDS」打ち上げへ
JAXAとNICTが開発した超高速インターネット衛星「WINDS」が公開された。国内やアジアのへき地でもブロードバンドを利用できる技術の実証を目指す。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月26日、来年初めに打ち上げる超高速インターネット衛星「WINDS」を筑波宇宙センター(茨城県つくば市)で公開した。最大1.2Gbpsの通信が可能で、災害で切断された基幹ネットワークのバックアップや、国内やアジアのへき地などでブロードバンド環境を実現する技術の実証実験を進める。
WINDS(Wideband InterNetWorlking engineering test and Demonstration Satelite)は大きさが2×3×8メートル、質量は約2.7トン(静止軌道上初期)。アンテナと電波を増幅するアンプ、交換機(ATMスイッチ)を搭載し、地上のユーザーに衛星を介したブロードバンド環境を提供する。
H-IIAロケットで種子島から打ち上げ、東経143度の静止軌道(高度3万6000キロ)に投入。設計寿命の約5年間、地上を結ぶ超高速インターネット技術の収集と実験に活用する。
周波数帯として、高速データ転送に向く20〜30GHzの「Ka帯」を使うのが特徴。受信した電波を増幅して送信するアンプ(電力増幅器)は、8つの出力と8つの入力を自在に配分できる「マルチポートアンプ」。これに複数の指向性を持つ2枚の「マルチビームアンテナ」を組み合わせる。
Ka帯は高速通信には向いているが、周波数が高いため、降雨などによる減衰が大きい。マルチポートアンプとマルチビームアンテナを使えば、例えば雨が降って雲が厚い地域には大電力を投入する──といった効率的な配分が柔軟に行える。
地上局は小型で済み、家庭にも設置できる45センチ径のパラボラでも下り最大155Mbps/上り最大1.5Mbpsの通信が可能。従来型の衛星で同程度の下り速度を得るには2.4メートル径が必要になるという。5メートルアンテナなら最大1.2Gbpsにまで高速化でき、災害時にバックボーンが切断された場合にIXとISPを結ぶといったバックボーンレベルの活用も検討する。
2枚のマルチビームアンテナは、一方で日本国内9地域とソウル、北京、上海を、もう一方で東南アジアの主要都市をカバーする。これに加え、任意の地域にビームを切り替えられる「アクティブフェーズドアレイアンテナ」も搭載。マルチビームアンテナに比べ利得は低いが、需要に応じて2ミリ秒間隔で通信エリアを切り替えられる。
WINDSはJAXAと情報通信研究機構(NICT)が共同開発し、JAXAは打ち上げや衛星開発などで465億円、NICTは交換機開発などに60億円を投じる。全体システム、マルチビームアンテナ、マルチポートアンプ、ATM交換機にはNEC、アクティブフェーズドアレイアンテナには三菱電機が携わった。
静止衛星を活用した高速インターネット計画は、政府「e-Japan重点計画」に2001年に盛り込まれ、2003年度から開発フェーズ入り。交換機にATMを採用したのは「デバイスが耐放射線性能などの条件を満たす必要があり、設計時にはATMの実現性が高いと考えられたため」という。当時と比べブロードバンドが普及し、FTTHによる高速通信も一般に普及しているが、JAXAは「日本の山間部や離島、アジアでは通信環境が十分ではなく、こうした地域にブロードバンドをもたらすWINDSの意義は大きい」としている。
同日、JAXAとNICTはWINDSの愛称募集を始めた。ひらがなかカタカナで、衛星の内容をイメージできる──などが条件。8月26日まで、Webサイトかはがきなどで受け付ける。
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