「想像をはるかに超える厳しさ」――年末商戦も不振、ソニー14年ぶり営業赤字の苦境に
14年ぶりに営業赤字に転落する見通しのソニーは、2500億円のコスト削減策を発表した。想定を超える販売不振や価格下落を受け、追加リストラ策の実施で収益力回復を急ぐ。
「現実に即刻対応するための苦渋の判断だ」――1月22日、2008年度(2009年3月期)の連結業績予想が赤字に転落する見通しだと発表したソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEOは1月22日、都内で会見し、09年度にグループ全体で計2500億円のコスト削減を実施する計画を明らかにした。世界的な消費不振が想定を超えており、コスト削減の徹底で収益力回復を急ぐ。
同社の08年度連結業績予想(米国会計基準)は2600億円の営業赤字に転落する見通し。(ソニー、1500億円の最終赤字に転落へ 不況と円高で再修正)。従来見通しから、エレクトロニクス分野で約3400億円(事業環境の悪化で約2500億円、円高で約400億円など)、ゲーム分野で約300億円、映画分野で約130億円悪化する見通しだ。
昨年の年末商戦は「想像をはるかに超える厳しい状況」(大根田伸行CFO)で、第3四半期(2008年10〜12月)の連結業績(暫定値)は、売上高が前年同期比25%減の2兆1500億円、営業損益は180億円の損失(前年同期は2362億円の利益)となった。
売り上げ不振を受け、液晶テレビやPC、コンパクトデジタルカメラ、Blu-ray Discレコーダー、PSPなどの通期売り上げ台数見通しも下方修正した。液晶テレビは1600万台から1500万台に、デジカメは2400万台から2150万台に、PCは680万台から580万台に、BDレコーダーは60万台から50万台に、ビデオカメラ「ハンディカム」は700万台から620万台に修正する。
PSPは昨年10月に1600万台に上方修正していたが、1500万台と当初見通しに戻した。
構造改革や事業所統合で2500億円削減も「十分ではない」
ストリンガーCEOは「ソニーは古い企業。固定費が多く、サプライチェーンが遅すぎ、新製品の投入が遅れすぎるなど問題がある」と述べ、コスト削減を行いながら、市場のニーズに合った製品をスピーディーに開発・市場投入できる体制を再構築する考えを示した。
各事業分野で構造改革を実施するほか、広告宣伝費や物流費などの大幅削減も実施。国内では早期退職制度の実施なども行い、コスト削減を図る。昨年12月に1万6000人の人員削減などによる1000億円のコスト削減策を発表していたが、追加策でさらに1500億円のカットを断行。構造改革費用として09年度末までに総額1700億円(08年度600億円、09年度1100億円)を計上する。
エレクトロニクス分野では、設計、開発、製造、物流、販売といった全オペレーションを構造的に見直す。内製にこだわらず、他社との連携やアウトソーシングも積極展開。投資計画の見直しや製造事業所の統廃合、人員の再配置・削減を行う。
液晶テレビ事業では、一宮テック(愛知県一宮市)で行っていたテレビの設計・生産を6月をめどに終了。国内事業所は稲沢テック(愛知県稲沢市)に集約する。一宮テックの正社員は原則、稲沢テックに移るが、非正社員は1000人は削減する。
テレビのハード・ソフトの世界共通化をさらに進め、新興国市場向けモデルはOEM展開を加速するなど効率化。ソフトウェア開発や機能検証の一部をインドなど海外にオフショア化し、設計関連部門の人員を09年度末までに全世界で3割削減する。
半導体・コンポーネント事業では、分散していた開発・設計・製造部門を統合。中小型液晶はソニーモバイルディスプレイ(愛知県)に、バッテリー事業はソニーエナジー・デバイス(福島県)に集めて効率を上げる。CMOS製造にも外部ファンウンドリを活用。システムLSIは旧世代ラインを閉鎖する。
中鉢良治社長は「2500億円の削減で十分とは認識していない」と述べ、追加策を検討していることを示唆。「今だかつてない厳しい環境だが、イノベーションの力を保ち、育てるのが責務」と話す。
ストリンガーCEOは「ソニーのコアコンピタンスはハードとエンジニア」と述べ、エレクトロニクス事業に注力すると改めて表明。収益力回復の鍵としてネットワーク対応製品の強化を挙げ、ネット経由でコンテンツを楽しめるテレビなど、ハードとネットコンテンツを連携させた事業を育てていきたいと話し、ゲームとエレクトロニクス分野の連携も進めていくとした。
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