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データベースは5カラムで設計 学生チームが入力を始める現場ルポ・被災地支援とインターネット

ネットを活用した被災地支援に取り組む藤代裕之さんが、「現場」の状況や課題を報告する連載の7回目。データベースは現地からの入力を簡単にするために5カラムというシンプルなものにすることが決まり、学生の入力ボランティアにまとめサイトとの違いを説明する。

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大震災の情報源としてインターネットが活用されているが、被災地からネットで発信される情報はあまりに少ない。震災被害はこれまでの経験と想像すら超えており、ネットにおける被災地支援、情報発信も従来のノウハウが通用しにくい状況だ。

ブログ「ガ島通信」などで知られる藤代裕之さんは現在、内閣官房震災ボランティア連携室と連携している民間プロジェクト「助けあいジャパン」に関わっている。ネットを使った被災地支援の「現場」では何が起き、何に直面しているのか。ネットという手段を持つるわたしたちには何が求められているのだろうか。震災とネット、情報を考える、マスメディアには掲載されにくい「現場」からの現在進行形のルポとして、藤代さんに随時報告していただきます。(編集部)


▼その1:「情報の真空状態」が続いている

▼その2:できる範囲でやる──ボランティア情報サイトの立ち上げ

▼その3:「ありがとうと言われたいだけのボランティアは 必要としていない」

▼その4:ターニングポイントになった夜

▼その5:チームを作る 誰がDBを作るか、プロデューサーは誰か

▼その6:有用性と実装スピードの両立 「とにかくこれでやらせてくれ」

 「事態が急展開」「急ブレーキ」。ボランティア情報の収集、入力作業の中心となっている学生編集チームは3月23日のことをそう表現する。22日午後の関係者会議でデータベース設計・開発の条件がそろったことを受け、まとめサイトを運営している学生編集チームに作業の一時中断が伝えられた。翌24日には助けあいジャパンとの合流とデータベースへの入力という作業変更の説明会が開かれた。

データベースは5カラムのみに

 まとめサイトの運営はデータベースの議論が行われている間も並行して進められ、150件のボランティア情報が登録されていた。学生編集チームは、ネットユーザー以外への認知を高めようと、22日には池袋駅でのビラ配りや社会福祉協議会へチラシ設置を依頼する宣伝活動を行っていた。作業がストップしたのは、その翌日の23日だった。

 ストップしたのは、データベースの設計・開発が進むことになり、学生編集チームの作業がどうなるか分からなかったからだ。23日の夜、都内の会議室で、まとめサイトに関わる大人側、Web開発チームのプロデューサー岡本真氏、データベース開発者の澤村正樹氏らを交えて用件定義が始まった。

 シンプルで冗長性の高い設計にするというコンセプトに従い、団体名、担当者名、住所、連絡先、内容の5つのカラムだけを作り、内容への入力側でカバーすることにした。入力カラムを少なくしたのは、現地からの情報入力の際に、多くのカラムがあることでインタフェースが複雑になり、忙しい中で「入力する気がしない」という意見に対応した。

 シンプルなカラムを作るということはデータが荒くなり、インタフェースが不十分なものになる可能性があった。まとめサイトはスタートして1週間が経過、学生ボランティアの編集能力が高いこともあり、情報の項目やインタフェースも少しずつ改良が行われていた。ボランティア内容を1行にまとめた見出しや、○○市の住人に限るといった参加条件を赤字で表記するなど、利用者に見やすくする工夫が積み重ねられていた。

 「シンプルな構造のデータベースでは、まとめサイト(wikiシステム利用)よりも利用者に不便になってしまう。もっとカラムを増やして細かな表示が出来るようにすべきだ」という反対意見がまとめサイトの大人側から出ることもあったが、押し切った。通常なら表示面も作るのだろうが、できるだけたくさんのサイトに使ってもらうためデータ提供に徹しているという姿勢を見せておきたかった。

 仕様をレビューして確定、すばやくデータベースを開発してもらい、でき次第テスト入力を開始するというスケジュールで進むことが共有された。どのようなデータベースになるか決まったため、24日に学生に説明会が行われることが連絡された。場所は新たに設けられた活動拠点だった。

学生にまとめサイトとDBの違いを説明

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持ち寄られた文具

 この日は、助けあいジャパンの活動に協力する企業の提供で、港区内に拠点が設けられた日でもあった。ボランティアとはいえ運営には場所や設備、人も必要だ。助け合いジャパンでは、趣旨に賛同する企業から人や物の提供を受けて活動を行っている。これまで活動実績もない団体に依頼から数日で拠点スペースを提供するというのは、いくら大規模な震災への緊急対応とはいえ、企業にとって困難もあったに違いなかった。

 拠点の提供を受けたとはいえ、机やPCはおろか、トイレットペーパーもない状態。電源やLANケーブル、文房具からゴミ箱まで、少しずつ関係者が持ち寄って作業ができる体制を整えた。ガランとした拠点での最初の仕事は、「活動拠点確保」という、ボランティア情報ステーションにとって初めてとなるプレスリリースを出す打ち合わせだった。その後、学生ボランティアとの打ち合わせが始まった。

 まとめサイトは助けあいジャパンと合流し、これまで収集してきたボランティア情報をデータベースに入力することになるとの変更を伝えた。学生はまとめサイト運営のために参加したボランティアであり、助けあいジャパンのために集まったわけではない。「無理に継続する必要はない。やりたい人が納得して参加を、希望しない人は静かに抜けてください」と区切りと選択肢を提示した。また、これまでまとめサイト運営に中心的な役割を果たしてきた日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)の学生運営が外れ、プロジェクトを横から見て記録をとるという「ジャーナリスト」の役割に戻ることになった。

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学生編集チームへの説明

 残った学生が床に車座になり、Web開発チームのメンバーがまとめサイト(wiki)とデータベースの違いを説明した。学生からは「これでwikiよりも多くの人が使ってくれることになるんですね?」「表示(インタフェース)は誰が作るんでしょうか?」という質問があった。学生チームはデータベースの意味を理解し、やりがいを感じてくれたようだった。

 澤村氏が一晩でデータベースを開発したため、説明会が終わってテスト入力をはじめることができた。データベースがあることが周知され、データを活用して表示面を作ってくれる企業や個人が現れるまでの間、まとめサイトの運営も同時並行で行われることになり、学生編集チームはデータベースとまとめサイト(wiki)の2つに同じ情報を入力するという負担が増えることになった。二重作業はいつまで続くのかという質問には「しばらく」と答えるしかなかった。

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