エンジニアライフというオープンソース的集団:コミュニティー運営の要諦(2/2 ページ)
執筆者と読者の9割がエンジニアである、エンジニアのエンジニアによるエンジニアのためのブログポータル「エンジニアライフ」を運営する金武明日香、彼女はもともとオープンソース的な考え方に共感を持っていたという。
奈良で銅鑼をたたく
オフラインでの活動が活発なのは、エンジニアライフの大きな特徴だ。編集部主催で開催するオフ会が年に数回あるが、コラムニスト主催のオフ会や勉強会はもっと頻繁に行われている。
編集部主催のオフ会を始めたのは2年前、2010年のことだ。もともとエンジニアには勉強会を自主的に開く文化があったが、このころから勉強会ブームが加速し、コラムニストの中から自分でもやってみたいという声が上がってきた。
勉強会での定番コンテンツはLT(ライトニングトーク)、ショートプレゼンのようなものだ。ひとり5分程度の短い発表を多数の発表者が連続して行うものだ。1時間のプレゼンでは自分にはできないかもしれないと考えるが(エンジニアは得てして謙虚だ)、5分程度で多くの人とともに行えるのならチャレンジしやすく、初心者にもハードルが低い。
そして実際にやってみると分かるのだが、LTはプレゼンの良いトレーニングになる。5分で理解してもらえるよう構成を練り資料にまとめるには、テーマに対するそれなりの知識と人に伝えるためのテクニックやマインドが必要だ。LTをきっかけにプレゼンに興味を持ち、極めていこうとするエンジニアが最近、増えているそうだ。
自主的にオフ会を開催するコラムニストたちに対して編集部は、悪く言えば「野放し」、良く言えば「信頼して任せている」状態だ。主役はコラムニストで、編集部はそれをサポートするというスタンス(たまに、編集部主催のオフ会もやるそうだが)。2012年春に奈良の能楽堂(世界遺産!)で行われたコラムニストが登壇したLT大会に金武は、愛用の銅鑼を持って応援に行った。
Webメディアは、現実に影響を及ぼしてナンボ
今はエンジニア主導でオンラインもオフラインも運営しているエンジニアライフだが、スタート当初はやや異なるものだったらしい。メディアが運営するブログポータルとして、「メディアに自分の記事が載ったらうれしいだろう」という仮説がベースにあり、オフラインでの展開は想定していなかった。
エンジニアライフが現在のような形に進化した背景には、前述の勉強会ブームから生まれたオフラインの盛り上がりに加え、金武の考え方も大きく関与している。
金武は大学でメディア学を専攻していたが、いわゆるマスメディアは好きではないという。「われらは社会の木鐸であり、情報を民に与えているのだ」という発想が苦手で、それよりも「誰かが答えを知っている」というオープンソース的な「集合知」の考え方に共感を感じたという。
だから就職先としても既存のメディアではなくWebメディアを希望し、アイティメディアに入社した。金武は、自分のベースは人間への信頼だという。
金武のエンジニアライフ運営のポリシーは、「コラムニストのためになることをする」である。根幹となる方針はあるが、細かいルールは設定しない。掲載前にコラムのチェックはするものの、誤字脱字の修正程度にとどめ、内容がコラムニストや読者のためにならないと判断したときに修正の提案をする。メディアに載せるからには編集者がチェックせねば、といった上から目線で接するのではなく、あくまで「コラムを書く人たちをもっとサポートしたい」と話す。
メディアは、そしてメディアの中の人である自分の役割は“仲介”である、と金武は考える。「どれだけPVが出たとか、どれだけブクマされたかとかは、実はあまり興味がないんです。それはあくまでメディア側から見た数値指標で、別にエンジニアたちのメリットになるわけじゃない。コラムニストや読者の現実にいい影響が出てナンボ。そこでエンジニアライフの価値が出る。だから、コラム執筆を次のステップにつなげてほしい。エンジニアライフは通過点でいいと思っています」(金武)
関連記事
- 音楽を介して出会いやビジネスが生まれてほしい、これこそがクラブカルチャー!
オフラインでSNSのような場を作りたい――Webマガジンやラジオ番組、DJイベントなどを主催するカネコヒデシさんは、楽しい“場”を演出するコミュニティーリーダーだ。 - リーダーは進んで自分を差し出せ
リーダーの役割は複数のステークホルダーを調整し、プロジェクトをプロデュースすること――学生支援団体「SCU」の若きリーダー渡辺友太さんに、企業学生合同コミュニティー運営のポイントを聞いた。 - 技術と人、人と人がつながる場所を作りたい
技術者はもっと技術の話をできる場を求めているはずだ。自分が学んだことを発表したり、共有したりしたいはずだ――技術系勉強会開催の目的と喜びについて、開催50回を迎えたBPStudyの主催者佐藤治夫さんに聞いた。 - @Shumpeiに聞く――アジャイルに進化する場の作り方
4000人を超えるメンバーが集う非営利コミュニティーはどのような信念で運営されているのか――「html5j.org」管理人の白石俊平さんが語るギスギスしない場の作り方とは? - みんなが気持ちよく過ごせる場をつくること、それが私の役割
居心地がよく活気のあるコミュニティーはどのように作られ、運営されているのか。個性豊かな集団を笑顔と気配りで盛りたてている千葉雅美さんに、運営のコツや心掛けていることを聞いた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.