「車とは違い、手元に届くときは未完成」――トヨタ自動車が“未完成”なロボット「KIROBO mini」を発売する理由
トヨタ自動車が発売するコミュニケーションロボット「KIROBO mini」は“未完成なロボット”。なぜトヨタがそのようなロボットを発売するのか、話を聞いた。
「KIROBO miniはトヨタらしくないロボットだ」――トヨタ自動車の専務役員、吉田守孝さんはこう語る。
トヨタ自動車は10月3日、コミュニケーションロボット「KIROBO mini」を発売すると発表した。KIROBO miniは3万9800円(税別)で、座高10センチの小さなロボット。会話などができるコミュニケーションロボットだが、「車とは違い、手元に届くときは未完成」という。なぜトヨタ自動車がこのような“未完成のロボット”を発売するのか。話を聞いた。
KIROBO miniは、人の顔を認識して追従したり話しかけたり、話している人の方向を推定して顔の向きを変えたり、表情認識、感情推定などができるロボット。しかし、顔を覚えたり歩行したりといった機能はない。全体的な機能も“スマートフォン以下”で、自動車を作っている会社が売り出すロボットとしては何か物足りなさを感じるかもしれない。KIROBO miniは何を目指しているのか。
それは、KIROBO miniが「社会の間を取り持つ存在」になることだ。人と人との間、人と物との間、そして人とクルマとの間を取り持つ存在になることを、トヨタ自動車は思い描いている。
例えば、KIROBO miniに歩行機能はないが、その人の好きなことや一緒に行った場所などを記憶する機能、クルマや家からの情報を取得する機能がある。それらの情報を用い、クルマで急ブレーキをかけたときに「あわわわわ、びっくりした〜」と言ったり、家の鍵を掛けたか尋ねると「大丈夫みたい」と答えてくれるのだ。
この小さなサイズにこだわったのも、「社会の間を取り持つ」ことを実現するため。いつでも寄り添えるよう、気軽に持ち運べるサイズにしたという。生産は、AIBOの生みの親であるソニーから分社したVAIOだ。生産はもちろんのこと、交換、修理のノウハウも持ち合わせているとのことから採用となった。
「親が子どもとキャッチボールをするイメージです」――トヨタ自動車MS製品企画部新コンセプト企画室の片岡史憲さんはこう表現する。「例えば、子どもとキャッチボールをするとき、親は子どもがどういうボールなら取れるかということを考えながら投げる。逆に、子どもからボールが投げられるとき、どんなボールでも取ってやるぞという気持ちで玉を待つ。これがとても大事な考え方。ロボットに対しても同じで、KIROBO miniは5歳児で成長していくイメージ。その成長とは、“30年経てば35歳になる”ということではなく、信頼関係や愛着的な成長という意味。今流行りの“人工知能”などはなく、決して賢いロボットではないと思っている。ドライバーとクルマがパートナーとして信頼関係を気づいていくように、KIROBO miniもまた相棒やパートナーとして人に寄り添っていく存在になればと思う」(片岡さん)。
KIROBO Miniは、2013年から2015年にかけて国際宇宙ステーションで行われた実験を受けて作られた機体。頭と身体のバランスは赤ちゃんに近い。
「KIROBO miniはトヨタらしくないロボット。クルマとは違い、手元に届くときは未完成で、便利さや技術的に優れていることよりも情緒的な価値に重きを置いている。これから先、ドメインをつなぐ存在として成長させたい」(吉田さん)
(太田智美)
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