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「この世界の片隅に」大ヒットでも……クラウドファンディングによる映画制作が「とてつもなく難しい」理由(2/2 ページ)

「クラウドファンディングで映画を作るのは、とてつもなく難しい」――クラウドファンディングで成功した映画「この世界の片隅に」のプロデューサーはこう話す。なぜか。

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支援者を“共犯”に

 映画の公開まで1年半。支援者を「制作支援メンバー」と呼んで毎週メールマガジンを届け、マスコミ公開前の素材を届けたり、制作の進ちょくを報告した。支援者の関心をつなぎ止めつつ、制作に参加した気持ちになって応援してもらう……いわば“共犯”になってもらう狙いだった。

 16年11月12日。同作は全国63館で公開され、立ち見客が出るほどの盛況に。評判はSNSでまたたく間に広がり、上映館数・観客動員数とも急拡大。17年3月25日までに興行収入得25億円、動員数は190万人を突破した。

 ヒットの原動力は、クラウドファンディング支援者を中心にした口コミだ。テレビCMを大々的に打つ予算もなく、民放の番組で紹介されることも少なかった同作だが、ファンがSNSで熱心に口コミを広げてくれ、評判が広がった。ネットのレビューは好評ばかり。悪評があまりに少なく「ちょっと気持ち悪いぐらい」と真木さんは笑う。

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リターンとして作品のイラスト入りメッセージカードも贈った。カードにメッセージを入れ友人に贈ってもらうことで、作品を宣伝してもらうことも狙った

 同作は「クラウドファンディングにマッチしていた」と真木さんは考えている。地味な映画で監督も著名ではなく、予算も少ないが、作品の密度は高く、作り手の情熱は熱い。判官びいきの日本人気質を刺激し、「自分が宣伝しなくては」と思ってもらえる要素がそろっていた。

それでも「クラウドファンディングは難しい」

 とはいえ、同作の大成功は「結果論」であり、「クラウドファンディングによる映画制作は、とてつもなく難しい」と真木さんは言う。

 まず、映画の制作資金は最低でも数億円かかる。日本のクラウドファンディングの市場規模で調達できるのは多くても数千万円程度で、制作資金のごく一部でしかなく、確実に集まる保証はない。

 リターンの設計も難しい。未完成の映画制作を支援する場合、金額相当の商品やサービスが受け取れるわけではなく、支援者には「応援したこと」そのものに満足を感じてもらう必要がある。“満足”という実体のないものを、支援者が本当に得られるか。募集側が見極めるのは困難だ。

 支援者に対して「裏切りや期待外れがあってはいけない」という緊張感もある。真木さんは以前、さまざまなクラウドファンディングを支援してきたが、リターンが予定通り届かないこともたびたびあり、そのたびに失望したという。

 「この世界の片隅に」のクラウドファンディングでは「支援者を絶対にだましたり裏切らない」ことを心がけた。「支援者を少しでも裏切ると、作品にや監督に傷がついてしまう」ためだ。支援募集の際は「スタッフの確保とパイロットフイルム制作のため」と目的をはっきり明示。集まった資金をどのように使ったか、メルマガで詳細に会計報告した。

 資金が集まらないこともリスクだが、集まりすぎても問題だという。映画公開後、監督の海外渡航費用を支援を募るクラウドファンディングも実施したが、お金が集まり過ぎてしまったため、急きょ内容を強化した。「クラウドファンディングはあくまで、足りない資金を支援してもらうマッチング。余ったお金をもらってしまうことはあり得ない」。

お金が集まりにくい作品こそ、みんなが「見たいもの」ではないか

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 ただ、「クラウドファンディングとアニメは親和性があると思う」とも。「ファンが濃く、映画やDVD、フィギュアなどにお金を使う」傾向があるからだ。

 「アニメや映像業界でお金が集まりやすい作品は、特定の方程式に乗っていて、同じような作品になってしまう。世の中にない作品にはお金が集まりにくいが、実はそれこそがユーザーが見たがっているものではないか」

 クラウドファンディングは、ファンとクリエイターをマッチングする「C2C」(クリエイターtoカスタマー)プラットフォームであり、“出会いサイトだ”と真木さんは見ている。「ユーザーが目利きするクラウドファンディングは、作品へのユーザーの期待を可視化し、制作者に勇気を与えるエンジンになる」。

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