「すごすぎる」――地方のパン屋が“AIレジ”で超絶進化 足かけ10年、たった20人の開発会社の苦労の物語(5/5 ページ)
焼きたての手づくりパンをレジに持っていくと、画像認識で瞬時に会計……そんな“AIレジ”が地方のパン屋にじわりと浸透している。その裏側にはシステム開発会社の苦闘の歴史があった。
次の導入先は……まさかの「神社」
この技術の応用範囲はパンだけにとどまらない。ブレインはBakeryScan開発で培ったノウハウをもとに「AI-Scan」(エーアイ・スキャン)と呼ぶ基幹技術を確立し、他分野にも広げる取り組みを行っている。
例えば最近導入が決まったのは「神社のお札売り場」。意外な場所にも感じられるが、商品にバーコードやRFIDを貼り付けられない、売り手の入れ替わりが比較的多い――という点は、パン店と共通だ。すでに都内の神社で導入しているところもあるという。
さらに同社は、画像認識での精算に加え、支払いや釣銭の受け渡しを無人で行える端末も開発・提供している。このままいくと、日本中のレジから販売スタッフが1人もいなくなる日も来るのではないか――。しかし、その可能性は低いと原さんはみる。
「手放しで人の仕事がいらなくなるとは言いたくないし、そもそも、できないと思う。画像認識は宿命的に、バーコードやRFIDほどの精度は出ない。1%の読み取りミスによって大きな損害が生まれてしまう可能性もあるし、分野によっては人がけがをする可能性もある。そんなものは実用化できないじゃないですか。足らない部分がコンマ数%でもある限り、人が介在しないとダメだと思う」
近年、完全自動運転車や“無人コンビニ”など、人の仕事をAIによってほぼ100%代替しようとする取り組みに注目が集まっている。だが少なくとも画像認識の分野では「しばらく100%の認識精度は難しいんじゃないかと思う。人間介在型でいいじゃないか、というのがわれわれの考え」という。
原さんはむしろ、高度な機械との共存によって、人がいま以上に活躍できる未来もあるのではないかと考えている。
「例えば、お店にスタッフが足りなければ、どこか他の地域に住んでいる人がインターネット越しにカウンターに立ち、機械の足りない部分を補いながらお客さんと目を合わせて受け答えしたり……。そんな時代も来るかもしれない」(原さん)
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