「コワーキング」は古い? ノマドが集まる「コーリビング」という生き方:“日本が知らない”海外のIT
「コワーキングスペース」が増加する中、プライベートな居住空間も共にする「コーリビングスペース」を提供するサービスも増えてきているという。
私たちに新しい働き方をもたらしてきた「コワーキングスペース」が先進国で浸透し、途上国でも増加の一途をたどっている一方で、「コーリビング(Co-living)スペース」というサービスが数年前からひそかに増えている。
連載:“日本が知らない”海外のIT
日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。
「コーリビングスペース」とは?
コーリビングスペースとは、基本的にはシェアハウスやシェアアパートとほぼ同義で、プライベートな居住スペースと共有スペースがある環境を指す。コーリビングサービス大手「Roam」の公式サイトには、以下のような説明が記載されている。
「Roamが提供するのは、プライベートな空間とデザイン性の高いソーシャルスペースが共存する環境。誰かが美しいブティックホテルをリノベーションし、バスルーム付きの部屋と大きなキッチン、さらにはコーワーキングオフィスやリラックスできる空間を作ったと考えてみてください。それこそまさにRoamなのです」
ユーザーは所定の料金を支払えば、シャワーやトイレ、プライベートルームなどの基本施設に加え、キッチンやコーワーキングスペース、洗濯・乾燥機、さらに場所によってはプールやメディアルーム、イベントスペースまで利用できる。以下が代表的なサービスの概要だ。
コーリビングスペースでの典型的な1日の過ごし方
拠点を構える地域は、米国や欧州の主要都市が中心だ。月々の利用料は場所によって差があり、日本円で15万〜35万円程度。利用者はノートPCなど仕事に必要なものと服さえあれば、入居後すぐに仕事を始められる。
1泊〜数泊単位での宿泊を受け付けているサービスもあるため、気になる方は長期滞在の決断をする前に何日間か利用してみるというのも手だ。
「OUTSITE」のWebサイトには、典型的な1日の過ごし方が以下のように記されている。
- 午前8時:起床。コーヒーと朝食のためキッチンに向かう
- 午前9時:業務開始。重要なタスクや電話をこなし、遠隔地に住むチームメイトやコーリビング仲間とディスカッション
- 正午:昼食休憩。コーリビング仲間が作ったランチに舌鼓。昼食後は午後の業務を開始
- 午後3時:サーフィン休憩。近くのビーチに徒歩で向かい、数時間サーフィンを楽しむ
- 午後5時:もう数時間仕事。午後発生したタスクをこなす
- 午後7時30分:近所のレストランへコーリビング仲間と夕食へ。世界各地から集まった仲間と会話を楽しむ
- 午後10時30分:就寝/残務処理
「コーリビングサービス」増加の背景
米クラウドソーシング大手Upworkが行った調査によれば、2027年までに米国の労働人口の半数以上がフリーランス化するといわれている。中でも若年層のフリーランス率は高く、2000年代に成人になる「ミレニアル世代」に限ってはフリーランス率が47%に達するという。
別の調査でも、家族やパートナーではない誰かと同居している25〜34歳の人口は、05年から15年にかけて39%も増加したとされている。
日本でも同様の傾向が見られ、フリーランスの数が前年比で5ポイント増加(労働力人口の17%)、さらにフリーランスの経済規模は15ポイント増加したとランサーズが発表している。国土交通省の調査では、シェアハウスの供給数は年率30%で増え続けており、主な利用者は20代後半といわれている。
このような社会的な変化や、大手企業によるリモートワークの推奨、さらには海外主要都市の家賃上昇などがコーリビングスペースの追い風になっているようだ。
実際に誰かと同居したことがある人や、コワーキングスペースを使ったことがある人なら分かるかもしれないが、家族以外の誰かと同じ空間にいることの影響は想像よりもはるかに大きい。
コワーキングスペースに特化したメディア「Deskmag」が毎年行っている調査では、過去半年の間に調査対象者の71%が、同じコワーキングスペースを利用するメンバーと何かしらのコラボレーションを行ったと回答している。
先述の「1日の過ごし方」にもある通り、同じ建物の中に住むとなると、食事や休憩の時間に自然と同居人とコミュニケーションが生まれるようになる。共有スペースでワークショップや各種イベントが定期的に開催されている所もあり、中にはコーリビングスペース利用者とつながるためにサービスを利用し始めたという人までいる。コーリビングスペース自体が、ゆるやかなインキュベーションプログラムのような役割を果たしているともいえるのだ。
テクノロジーの力で場所にとらわれない仕事をする人が増えている今だからこそ、同じような生き方・考え方の人と出会うためにどこかへ移動する彼らミレニアル世代。その姿は、18世紀欧州のカフェに集い、後の世界に変革をもたらしていった知識人や芸術家とも重ねて見ることができるのではないだろうか。
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