テレビと会話し、ストーリー分岐 “テレビ離れ”防ぐ番組作りの今:“日本が知らない”海外のIT(2/2 ページ)
“テレビ離れ”の流れに対抗できるか。視聴者がストーリーの行方を選択できる「インタラクティブストーリー」とは何なのか?
スマートスピーカー活用 大人向け作品も
インタラクティブコンテンツは子ども向けのものばかりではない。英国の公共放送局BBCは先日、「RosinaSound」と共同で開発したインタラクティブ型のSFラジオ番組「The Inspection Chamber」を発表。同社は「Amazon Alexa」や「Google Home」といった音声アシスタントを活用し、音声で作品と消費者の距離を縮めようとしている。
こちらはNetflixの作品とは違い、聞き手が主人公という設定。サンプル音声を聞いてみると、女性の声で「こんにちは、私の名前はDave。(中略)間もなく科学者が到着し、あなたの検査を開始します」と物語がスタートする。
視覚的な情報がないにもかかわらず、機械的な女性の声がうまく作用しSF作品特有の不気味さがうまく醸し出されている。その様子は、一時期ネット上で話題になったインタラクティブゲーム「The Stanley Parable」を彷彿(ほうふつ)とさせるものだ。事実、「The Inspection Chamber」は同作品やフランク・カフカ、ダグラス・アダムズの小説にインスパイアされて、誕生したようだ。
BBCは昨年、音声操作技術の発展を受けて「Talking with Machines」(機械との会話)と呼ばれるイニシアチブを立ち上げた。彼らのゴールの1つは「さまざまな音声インタフェースの発展を支えるような、デバイスに依存しないプラットフォームの開発」とされているため、「The Inspection Chamber」はスタート地点でしかないものと考えられる。
残る課題 アイデアとテクノロジーで克服
とはいえ、インタラクティブストーリーには数々の課題も残されている。スマートスピーカーを利用したBBCの作品で言えば、Amazon Alexaは90秒(Google Homeだと2分)ごとにスピーカーへ話かけないと、デバイスが聞き手の声に反応しなくなってしまう。さらに現状では返答の種類もかぎられているため、それに合わせてナレーションの内容を考えなければならない。
しかし先述のサンプル音声を聞くかぎり違和感は感じないため、ここは技術的な制約をうまく乗り越えたBBCのアイデア勝ちというところか。
映像作品で言えば、複数のストーリーラインが必要となると、当然作り手の労力やコストは直線的な物語に比べて増加する。もしも実写でインタラクティブ型のコンテンツを作るとなると、その費用は青天井だ。
例えば、Netflixオリジナルの人気シリーズ「House of Cards」の制作費は1話あたり500万ドル(約5.6億円)とも言われており、これをインタラクティブ型にするとなると2倍近い費用がかかってくる。
Netflixの作品はアニメーションだが、それでも映画「Puss in Boots」(先述の「Puss in Book」と同じキャラクターが登場するDreamWorks Animation制作のアニメ映画)の制作費は1億3000万ドル(約14.5億円)だ。
しかし、一昔前まではかなりのお金をかけて作られていた作品と同じレベルのものが、現在ではスマートフォンでも作れるということを考えると、少なくとも映像面では今後コストが下がっていく可能性は十分ある。また最近では高度な合成音声や3Dアニメーションを簡単に作れるソフトが誕生しつつあるということにも期待したい。
アートとテクノロジーは昔から近い関係にあり、近年特にビジュアルアート以外の分野でもテクノロジーの活用が進んでいる。VR(仮想現実)やモーショントラッキング、はたまたAI(人工知能)など、最先端技術がどんどんアート界に進出するうちに、さらに没入感の高い、新しいタイプのコンテンツが誕生するかもしれない。
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