世はスマホ全盛期 PCメーカーが製品ジャンルを増やすのはなぜ?:“中の人”が明かすパソコン裏話
メーカーの中の人だからこそ知っている“PCづくりの裏話”を明かすこの連載。PCの出荷台数が減っているにもかかわらず、商品のラインアップが増える理由は?
こんにちは、日本HPでPCの製品企画を担当している白木智幸です。2017年も残りわずかとなりました。この連載をお読みになっているビジネスアスリートの皆さまも、サーキットトレーニングをこなすかのごとく、ショートレストで過酷なタスクを次々とさばいていることと思います。今回はそんな多忙な日々の隙間にサクッと読めるネタを紹介します。
突然ですが、「PCメーカーって、何でこんなに多くの製品ラインアップを提供しても成り立つのだろう?」という素朴な疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。私のいる会社でも、ラインアップを幅広く取りそろえる傾向にあります。
以前の記事で、「PCの国内出荷台数が減少傾向である」という話をしたにもかかわらず、むしろ最近は2in1やタブレット、ゲーミングPCなど製品群は増えるばかりです。
普通に考えれば、「商品数を絞り込んで効率化すべし」と考える方も多いはず。これは一体どういう事でしょうか。
PCの販売戦略は?
製品の販売戦略を立てる上で、「プロダクトライフサイクル」という考え方があります。シンプルに言えば、「革新的な製品は最初に少数のファンを獲得することから始まり、その後にある一定のラインを超えると爆発的に普及、全盛期を迎えた後、徐々に衰退する」というものです。ちょうど生物の一生にも通じる考え方で、多くの製品にあてはまる考え方となります。
その一定ライン(キャズムといわれる溝)を越えられない場合は、爆発的に普及することなく姿を消すということも広く知られていることかと思います。鋭い方は気付いたと思いますが、このようなカーブを描くためには、革新的な製品を次々と送り出していかなければ必ず衰退の道をたどってしまうことが予想できます。
少し哲学的な話になりますが、私たち人類は「昨日よりも今日を便利に、明日はさらに便利に……」と、日々前進することが求められていると考えています。
人類のDNAにそういった欲求がある以上、メーカーは商品を通して世の中を継続的に豊かにするという崇高な目標の達成に努め、普及段階にある製品はさらに更新し、より低価格で、さらに多くの人が手にできることを目指すという難題に取り組まなければいけません。
「パーソナル・コンピュータ」というネーミングがあるように、高価で限られた人しか利用できなかったコンピュータを「個人、一人一人に普及させたい」という思いが一貫してここに通じています。
ちょっと暑苦しいでしょうか。でもメーカーとしては大事なことなのです。
低価格で多様な製品を提供するために
過去のデータを見ると、PCというジャンルは1992年ごろから低価格化と市場の急拡大が始まったと見ています。この年はPCメーカーの「コンパック」が日本に上陸したタイミングでした。高校生だった私もアルバイトをしたお金で、当時としては低価格だった一体型PC「Macintosh LC520」を手にしたことを覚えています。高校生のときにPCとの出会いが無ければ、今はこの仕事をしていないかも知れません。
企業側からすれば、製品の低価格化は利益の減少といったネガティブな要素を思い浮かべるでしょう。しかし、市場の拡大を促進するというメリットもあります。私自身も低価格化のおかげでPCを手に入れられ、感謝している1人です。
しかし、すでに成熟期に差し掛かった現代のPC市場では、低価格化による爆発的な市場拡大を見込むことは難しいでしょう。このような環境では、メーカーは国内需要だけでなく海外にも目を向ける必要があります。多くの需要を世界から得る必要があるのです。
一般論ですが、出荷する数量が多くなることで部品の調達コストを下げられます。さらに、製品間での部品共通化や製造工程の簡素化といった効率化を図ることで、低価格で魅力的な商品を提供できる環境が作れます。
世界にはPCの普及率が低い新興国もあります。私自身が低価格化によってPCを手にしたように、こういった“不断”の取り組みを通してより多くの人にPCを届け、その創造的な活動を陰ながら応援したいと考えています。
2013年に私が担当するビジネスノートPCを発表する際に、私たちの提案する製品が存在する意義について徹底的に議論して見いだした答えがこれです。
「常に裏方であり、信頼できるパートナーであること」
私たちのようなメーカー側の取り組みが、少しでも「昨日より今日を便利に、明日はさらに便利に」という崇高な人類の目的のお役に立てることを願い、2017年の連載を終わりたいと思います。
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