「出版界のAmazon」目指す 著者と読者つなぐ出版プラットフォーム「Publica」 :“日本が知らない”海外のIT(2/2 ページ)
ブロックチェーン技術を使い、読者が直接著者を支援できるオープンプラットフォーム「Publica」が目指すものとは。
著者はスマートコントラクトにあらかじめ取引条件を明記できるため、例えば読んだページ数に応じて課金したり、まとめ買い用の割引を適用したりと、本の売り方を自分で決められる。
今のところは本のみが対象になっているが、Publicaは将来的に論文や調査レポート、はたまた映画のようなマルチメディアもサポートしようと考えているようだ。
Publicaのジョセフ・マーク(Josef Marc)CEOは「出版業は本当の意味でグローバルなビジネスだ。そして書籍を作るという行為は、小さく始めて最終的には持続可能なビジネスへと成長させられるという意味で、起業に似ている。今後は起業家精神あふれるビジネスモデルやアイデアが出版業界でたくさん生まれるようになるだろう」とプレスリリースの中で語った。
さらに彼は、Publicaに独自のトークンであるPBLが欠かせない理由について、「出版業界における決済額には個々でかなりの差がある。法定通貨はその点効率が悪く、通貨によっては大きな金額を1度に動かせないという問題もある。そもそも、出版業界の人たちには収益をすぐに現地通貨へ変えるニーズがない。というのも、収益のほとんどは次のプロジェクトにそのまま利用されたり、制作に関わっていた人たちに分配されたりするので、いちいち現地通貨に両替する意味もないし、為替費用もばかにならない。(中略)私も自分のお客さんにどの通貨で支払ってくれなんて伝えたくない」と続ける。
そんなマーク氏の思いが伝わったのか、今月初めに実施されたICOでPublicaは無事、目標額の100万ドル(約1.1億円)を調達した。
創業者の3人をつないだのもブロックチェーン
創業メンバーの3人は、Publica設立までそれぞれ全く違うキャリアを歩んできた。マークCEOは出版・放送業界の事業開発分野で豊富な経験を持っている一方、ユリ・ピメノフ(Yuri Pimenov)CTOはラトビアでGoogleに次ぐ最大の検索エンジンを運営する企業でR&D部門のトップを務めたこともある開発者。
そしてアントンズ・サプリコ(Antons Sapriko)COOは、ECに特化したシステムインテグレーターScandiwebを共同創設し、現在でも同社のCEOを務めている。なお、マークCEOは米国に拠点を置いているが、ピメノフCTOとサプリコCOOは現在も出身地のラトビアに住んでいる。
ピメノフ、サプリコ両氏は、Publicaの設立前にカリフォルニア州のパロアルトにあるScandiwebのオフィスで一緒に働いており、サプリコCOOは当時ゲームスタジオを経営していたピメノフCTOからゲームのライセンスを開発前に販売するというアイデアを耳にする。
Scandiawebでスタートアップに特化した投資銀行とタッグを組み、ICOプロジェクトを率いたこともあったサプリコCOOは、そのアイデアとブロックチェーンを組み合わせられるのではと思い付いた。
その後、2017年の2月に仕事を通してマークCEOと出会ったサプリコCOOは、ブロックチェーンの可能性について説き、メディア業界で長年働いていたマークCEOも出版業に彼のアイデアが応用できるのではないかとひらめく。
こうしてお互いに刺激を受けあった3人は、同年3月にラトビアの首都リガで再会し、Publicaのアイデアを固めていくことになったのだ(詳しくはジャーナリストアラン・エワート(Allan Ewart)氏のブログポストに詳述)。
複数の人々が会社や国境といった枠を飛び越え、互いの知識や専門性を持ち寄り、そこから新たなものを生み出していくという彼らの創業ストーリーは、Publicaが志向する出版業界の未来そのものともいえるだろう。
同社はICOで調達した資金を利用し、18年第1四半期中にPublicaの一部機能を公開する予定だ。
先述のマークCEOは「Amazonはインターネットを通じて、商取引の『摩擦』を減らすことに成功した。Publicaはブロックチェーンを使い、出版業界で同じことをしようとしている。電子書籍ではなく、読者を含めた出版業界全体がそのターゲットだ」と意気込みを語っている。
関連記事
- 「ZOZOSUIT」を作った謎のスタートアップの正体
スタートトゥデイと「ZOZOSUIT」を共同開発した、ニュージーランドのスタートアップ「StretchSense」とはどのような会社なのか。 - 週休2日、8時間労働は時代遅れ――“IT国家”発の次世代型人材サービス「Jobbatical」
海外のIT事情を紹介する新連載がスタート。第1回は、北欧のIT先進国エストニアで生まれた、“イマドキな働き方”ができる人材マッチングサービス「Jobbatical」を取り上げる。 - “乗り捨て”をどう解決? 世界で広がる「自転車シェアサービス」の今
日本だけでなく、世界でもスタートアップが続々と参入する「自転車シェアリングサービス」。手軽な移動手段の1つとして便利だが、まだまだ超えなければならない課題は多い。 - “キャンプに特化したAirbnb”の「Hipcamp」 米国の若者になぜ人気
“キャンプ場版Airbnb”と呼ばれる民泊サービス「Hipcamp」が米国で人気を集めている。「モノ」より「体験」を選ぶ若者は何を求めているのか。 - ドイツ発の“AI人事”は何が違う? 企業成長にAIが役立つ理由
会社の人事をAI(人工知能)が行う時代。ドイツ発のスタートアップ「Bunch」は、企業の「カルチャー」を分析する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.