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「製作委員会方式」やめました アニメ製作変え、教育現場を動かす気鋭の学科長

従来のアニメ製作とは違った手法を取ることで「公開する前に、アニメ製作にかかった費用は回収できてしまう」という映像監督がいる。「製作委員会方式」をやめることでアニメの新たなビジネスを見いだした、糸曽賢志さんに話を聞いた。

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 長時間労働の割に、薄給であることが度々問題視されるアニメ製作業界。そんな中、従来のアニメ製作とは違った手法を取ることで「公開する前に、アニメ製作にかかった費用は回収できてしまう」という映像監督がいる。

 糸曽賢志さん、39歳。大阪成蹊大学で特別招聘(しょうへい)教授(造形芸術学科長)として教べんを取っており、「遊☆戯☆王」カードのイラストレーターや、「Xperia XZ」のCMの映像監督、今敏監督の遺作「夢みる機械」の演出を担当した経歴を持つ。スマートフォンゲーム「Fate/Grand Order」を手掛けるFGO PROJECTクリエイティブプロデューサーで、ディライトワークスの塩川洋介さんを2019年度から客員教授として招き入れた立役者の1人でもある。

 「せっかくなら人とは違うことがしたい」という糸曽さん。映像監督というクリエイターの顔と、教授という大学の顔の2つを持つ糸曽さんは「製作委員会方式」をやめることでアニメの新たなビジネスを見いだしたという。


大阪成蹊大学で特別招聘(しょうへい)教授(造形芸術学科長)として教べんを取る糸曽賢志さん

公開前に製作資金を回収できる“カラクリ”

 アニメーション製作では、現在「製作委員会」という方式が一般的だ。テレビ局や広告代理店、出版社などが1つの製作委員会を形成し、複数社が出資した資金でアニメ制作会社に発注。作品の権利は製作委員会が持ち、作品の放映やグッズ作成などを行うビジネスができる一方、アニメ制作会社はあくまで受注した案件を納品する立場であり、制作に関わったアニメーターなどのクリエイターはその作品で自由にビジネスをする権利を持てない。


「アニメーション製作の主な資金調達方式」(みずほ銀行「みずほ産業調査Vol.48 コンテンツ産業の展望」から引用) 広告収入方式(左)では元請アニメーション制作会社が制作番組の著作権を持つが、製作委員会方式(右)では製作委員会が著作権を持つ

 製作資金を複数社でリスクヘッジできることが製作委員会方式のメリットだが、現役クリエイターと大学教授を兼務する糸曽さんにとっては、権利を持てない作品を制作しても後進のクリエイターとなる学生たちに教える教材としては使えないものになってしまう。

 そこで糸曽さんは、「100%の権利を自分で持てる」アニメの作り方を始めたという。出資は自己資金で行い、他の商業プロジェクトなどで知り合ったクリエイターに声をかけ、制作に関わってもらう。すると、「予算に限界ができるので作品の時間は限られるものの、現場の著名クリエイターや著名キャストが参加することで、ある一定水準のクオリティーを保ったオリジナルアニメが作れる」という。

アニメの制作過程が学生の教材に


糸曽さんが代表を務めるKENJI STUDIOの完全オリジナルアニメーション「サンタ・カンパニー」(c)KENJI STUDIO

 全ての権利を自身で持つことで、制作過程の資料をビジネスにも使える。大学でクリエイター教育に携わる糸曽さんは、学生の教材にこれが使えないかと目を付けた。

 「プロが作ったアニメの制作過程の資料などを、学生が自由に触って学べるという教育ができたら面白いのではないか」――予想は的中して、海外を含む複数の教育機関から資料を年間ライセンスで買いたいなどの相談が寄せられたという。

 教育機関がライセンスを購入してくれるため、この時点で出資した資金は回収できる。教壇に立つ自身も、自身が作成した資料で学生に指導できる。学生も糸曽さんを始めとする現役クリエイターの資料に触れて学ぶことができる。

 創作を学生に教えるという立場について、「いろいろな考え方の人がいると思う」とことわった上で、糸曽さんは次のように考えているという。

 「それぞれの生活もあるし、自身の居場所を守るために必死になる必要が大人にはあるのも理解できます。でもそれは一回忘れて、(教授である糸曽さん自身が)何か新しいことに挑戦し、『大人たちの中にもリスクを恐れずにもがいている人もいるんだよ』という姿を学生たちに見せ、実際にプロジェクト成立までの流れをリアルタイムに開示したり、学生にもプロジェクトに参加してもらったりすることで、何か学んでくれたらいいなと思っています」(糸曽さん)

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