「漫画村、刑事告訴している」 講談社が明らかに これまで採った対策は(2/2 ページ)
「漫画村」ブロッキング問題。「ブロッキングという法的根拠のない手段を取る前に、出版社はどこまで対策したのか」と疑問の声が上がっている。講談社は、漫画村に対して刑事告訴を行うなど、さまざまな対策を採ってきたと説明する。
「漫画村」による被害はどれぐらいあったのか
――コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、「漫画村」による権利者の被害額を約3000億円と試算した(※)。コミックス市場(電子含む)が4000億円前後で推移する中、この数字は「過大ではないか」との指摘もある。
(※)アクセス解析サイト「SimilarWeb」で漫画村のドメインを解析し、17年9月〜2月ののべアクセス数(Total Visit)6億1989万に、漫画や雑誌の平均単価515円を掛け合わせた額。CODAは「逸失利益ではなく、あくまで流通額ベースの試算」と説明している。
3000億円をそのまま売り上げと認識しているわけではない。電子書籍が“盗まれた”時、被害額をどう判断するか。海賊版サイトによる被害額を算定する基準や判例がまだなく、難しい。ただ“盗まれている”方は泣き寝入りするわけにはいかない。(CODAの算定した被害額など)何らかのオフィシャルの数字を掲げざるをえない。「3000億円と試算したが、実際の被害は3億円でした」ということはない。大きな被害は出ている。
――コミックスの売り上げが減少したとして、本当に漫画村の影響かどうかは分からないのでは。
そういう見方があるのは承知している。漫画村の影響は社内では試算しているが、今後、民事訴訟で賠償を求めていくので、詳細の数字は出せない。ただ、漫画村が利用できた期間中、紙・電子とも、コミックスの売り上げが落ちた。漫画村が利用できなくなった後の売り上げ回復の状況を今、調べているところだ。
「ブロッキングが唯一絶対の方策とは考えていない」
――今回、政府は「漫画村」のブロッキングをISPに促すことを決めた。法整備が行われない状態での海賊版サイトブロッキングは、ISPに通信の秘密の侵害を強制することにもつながる他、「表現の自由・知る権利に対する諸刃の剣」との指摘もある。表現を生業にする出版社として、政府にブロッキング推進を要請することは、自分の首を絞めることにもつながるのではないか。
その懸念はあるが、海賊版サイトの被害が拡大し、あらゆる手立てを排除できない状態であるため、対策の選択肢の中に、サイトブロッキングも入ってくる。当社としては、ブロッキングが唯一絶対の方策とは考えていない。海賊版サイトに対するテイクダウン要請や訴訟、収入源となっている広告への対策、読者の啓蒙なども対策の一つだ。また、海賊版漫画(静止画)のダウンロード違法化、リーチサイト対策の立法なども必要だ。
――海賊版漫画のダウンロードを違法にする著作権法改正(静止画のダウンロード違法化)も求めていくのか。
求めていく。漫画のダウンロード違法化は、音楽・映像のダウンロード違法化が盛り込まれた2009年の著作権法改正時にも検討されたが、最終的にに外されたという経緯がある。もう一度、検討すべきだ。
――政府がブロッキングを含む緊急対策を出したことを受け、出版各社が緊急声明を出した。集英社(PDF)は緊急対策について「大きな前進」、KADOKAWA(PDF)は「海賊版問題の抜本的な解決に向けた大きな一歩」、出版広報センター(PDF)(センター長:集英社の堀内丸恵社長)は「出版界として歓迎する」と前向きな書き方だった一方、講談社の声明(PDF)には、政府の方針に対する直接の歓迎の意思は特に示されおらず、温度差があるようだ。出版界は一枚岩ではないのか。
出版社によっていろいろな考え方があるのが健全だ。
――海賊版のネット流通による被害は、かつて音楽業界も通った道だ。音楽業界は、レーベルの枠を超えた定額の聞き放題サービスを出すことで、海賊版はあまり利用されなくなり、正規のサービスが活性化した。漫画はそういった対策が遅れているという指摘もある。
遅れていると言われれば、その通りだと言わざるを得ない。出版社を横断する漫画のポータルサイトはないし、本来は、ほしいと思う。「漫画村」のように完全無料で提供するのは難しいが、課金の仕組みや立て付けなどを含め、整備しないくてはならないと社内で検討している。これまで、ほかの出版社と非公式に話をした人間もいるが、具体的な仕組みを描くまでには至らず、なかなか話が進んでいないのが実情だ。
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