保護期間は本当に70年になるのか
TPP11は国際条約であるため、加盟国のうち6カ国が批准し、法的手続きを終えた60日後に発効する。すでにメキシコが手続きを終えており、日本が2番目となる。このままのペースで手続きが進めば、最短で年内発効はあり得るシナリオだ。
つまり年内から来年前半あたりには、著作権保護期間は70年になる。10余年にわたる民間での議論の成果である「延長に利益なし」という結論は、関連書籍も数多く出版されたが、全く役に立たなかった。ドサクサに紛れて凍結条項を差し込んだのは、国内議論ではもめるので、条約というバイパスルートを使って国内議論をすっ飛ばしたという見方もできる。
国会は、政府が国際条約として持ち帰った案件を細かく精査しないからだ。これが国内法改正なら、担当省庁の審議会等で時間をかけて議論し、報告書をとりまとめ、それに基づいて法案が作られ、といった審議プロセスがある。だが条約は「国際会議でそんだけ時間をかけてもんだ話ならいいんじゃないか」として通ってしまう。
保護期間が延長されれば、それだけ過去の著作物の再利用が難しくなる。保護期間が切れてからの利用の話ではない。保護期間内に許諾を取って再利用したくても、作者の子孫が増えていくほど、権利処理は複雑化していくのだ。何せ死んでから70年である。1人の権利者も、ひ孫30人とかに増えている。うち1人2人はどうしても見つからないなんてことは、あり得る。
子孫の方も、まさか自分にその作品の権利があるなどと知らずに暮らしている場合もあり得る。違法に作品が利用されていても、それが誰にもわからないのであれば、結局は法秩序が保てず、著作権法が機能不全に陥ることになる。
保護期間が70年に延長されて真っ先に影響をうけるのは、著作権切れの文学作品を無償公開している「青空文庫」のような活動だと言われている。たしかにそこが一番わかりやすいところではあるのだが、これから我々の文化に深く影響を及ぼしていくのは、「コンテンツの再生産が止まる」ことだろう。
「起こらなかったこと」はカウントできない。だから、影響の深さもカウントできない。こうして我々が気づかないうちに何かが失われていくことを、「滅ぶ」というのだろう。
著作権法第1条には、「第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」とある。
「文化の発展に寄与する」はずの法律が逆に機能し始めているが、それを正しい方向に転換させる手段を誰も持ち合わせていないのが、今の現実である。
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