PCのバッテリー駆動時間がスペック表の公称値と一致しない理由:白木智幸のITフィットネス(2/2 ページ)
メーカーの中の人だからこそ知っている“PCづくりの裏話”を明かすこの連載。今回はPCのバッテリー駆動時間についてお話します。
Ver.1.0のテストで使われていた動画ファイルの解像度は、PCの黎明期をほうふつさせる320×240ピクセルという小さなもの。ディスプレイの明るさも最小値となっていた為、PCにほとんど負荷がかからず、計測される駆動時間が長くなっていました。そこでVer.2.0では動画ファイルの解像度をフルHDに変更し、明るさを適正な数値に修正する事で、時代に合った負荷がかかるようにしようと考えたわけです。
しかし、ネット接続を前提としたツールなどの使用については「各社同じ環境を用意する事は難しい」として見送られています。確かにVer.1.0の基準を更新することは急務と思えたため、まずはこの内容で確定をすることの必要性を私も感じていました。
しかし予想外だったのは、この基準が長く使われることになったことです。
Ver.2.0が立ち上がった2014年に比べて、メール、メッセージングソフト、クラウドツール、動画コンテンツなど、無線LANを経由させるインターネットへの接続はより欠かせない要素となっています。計測条件にインターネット接続の要件が含まれていないのは、実態に合わせるという観点で課題を残すことになったと考えています。
また、キーボードを使った文字入力や、オフィスソフト、写真編集ソフトなどの利用も想定されていないことも実際の利用と乖離(かいり)が生じる要因になったと考えています。
海外を見渡してみると、AbobeのソフトやOfficeソフト、Webブラウザなどの主要なソフトウェアを利用した状態を再現しながらバッテリー駆動時間を計測する「MobileMark」などの専用ソフトウェアがあります。一部のメーカーはこれを使ってバッテリー駆動時間を計測する事があります。よりリアルな負荷をPCにかけることで、実際の駆動時間に近づけようというアプローチです。
もちろん、完全にユーザー環境とマッチするシナリオでテストを行うことは不可能です。最終的には参考情報としての域にとどまることになりますが、計測条件に由来する実態との乖離(かいり)は少なくなるでしょう。
一方、メーカーは基本的に商品を良く見せたいという立場にあります。あまりにも苛酷すぎるテストを行い、短い駆動時間を表示することは売り手として望まないわけです。商品性を過少に見せすぎず、どこまで正確さを追求するかのバランスも重要です。
なかなか明確な答えのない分野ですが、もしも次にJEITA測定法を更新する機会に恵まれることがあれば、インターネット接続や、海外で使われているMobileMarkのようなアプリケーションの利用を提案したいと考えています。
国土の広さや環境によって自動車の利用実態は異なります。しかしPCは、グローバル共通のものを用いても利用方法にそれほど大きな差はないと考えられます。私はグローバルに通用する測定法を定義できれば、世界中のユーザーがPCを選ぶときの判断に役立つはずと考えています。
このように、バッテリーの駆動時間の計測方法を少しでも理解しておくことで、PCの買い替え時の適切な判断に役立てれば幸いです。
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