高級路線のノートPC、アルミが使われるのはなぜ?:白木智幸のITフィットネス(2/2 ページ)
メーカーの中の人だからこそ知っている“PCづくりの裏話”を明かすこの連載。今回はノートPCの本体に使われる素材についてお話します。
アルミの弱点は?
アルミニウムにも欠点もあります。1つは「電波を通さない」という点です。ノートPCは天板と呼ばれるディスプレイの裏側をアルミで作り、耐久性と美しさの両立を狙う事が多々ありますが、ディスプレイ上部にはWi-Fiのアンテナを内蔵する必要があります。
Wi-Fiアンテナをディスプレイ上部ではなく低い位置に取り付けると、アンテナの性能の面で不利となってしまうためです。一般的にアンテナを内蔵する部分はプラスチックパーツにして電波が通るようにします。
アルミの欠点2つ目は腐食しやすいという点です。アルミニウムは鉄(スチール)と比べてサビにくいと知られていますが、表面はキズがつきやすく、腐食や摩耗しやすいのです。
そこでアルミの表面にアルマイト加工(陽極酸化処理)を施して表面を強化します。これで強度を高めたり摩耗を防いだりしています。身近なものではアルミ製のスーツケースなどがこれに当てはまります。
【訂正:2019年4月9日午後4時 初出時、アルミ表面の感触がザラザラする理由を「アルマイト加工(陽極酸化処理)によるもの」としていましたが、専門家からの指摘により、表面に凹凸を付けるサンドブラスト加工によるものであることが分かりました。訂正してお詫びいたします。】
アルミを使うノートPCの場合も、大抵こうした表面加工を施しています。これで金属そのものが持つ美しさと耐久性のちょうどいいバランス得られるわけです。
余談ですが、アルマイト加工は日本発の技術で、今は世界中で使われるようになったそうです(理化学研究所百年史より)。日本で発見された技術が世界中で使われているというのは、ちょっとロマンを感じさせてくれるストーリーではないでしょうか。
アルミの欠点3つ目は、熱を伝えやすい点です。ノートPCのパームレストがアルマイト加工されたアルミの場合、高いデザイン性が得られる一方で、寒い冬などはヒンヤリとした感触を不快に感じることもあるでしょう。
この解決策として、手に触れる部分に本革や高級人工皮革として知られるアルカンターラ素材を採用したノートPCが登場しています。ちょうど高級車のシートやステアリングにも本革やアルカンターラ素材が利用されていることを踏まえると、クルマとノートPCに共通点を見いだせますね。
このように、金属素材ならではの弱点を加工技術や素材の組み合わせによってカバーすることで、金属のもつ美しさと商品性のバランスを取っています。
ちょっとマニアックな部分ではありますが、いつも使っている製品などの素材や加工方法にもぜひ目を向けてみてください。そこには今まで気が付かなかった発見があるかもしれません。
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