「人類には早すぎた」 人工生命観察プロジェクト「ARTILIFE」が私たちに問いかけるもの(2/2 ページ)
ドワンゴの人工生命観察プロジェクト「ARTILIFE」をプレイして記者が感じたことをまとめてみた。
甘やかすとニートになる
ARTILIFEは観察がメインのサービスなので、プレイヤーができることは限られている。人工生命が死なないようにフード(食料)をやったり、テニスボールや湯呑みなど多様なオブジェクトを置いて環境を変えたり、ときには人工生命同士を配合したりできるので、まさにプレイヤーは神様のような存在だ。
面白いのが、個体ごとに性格が異なる点。自由気ままに動いているように見えるが、「たくさんフードを獲得する」「ぼっちになりたい」「一族と群れたい」「オブジェクトで遊びたい」などいくつもの習性があり、それを個体ごとに異なる割合で混ぜ合わせているという。
確かに、それぞれの個体を観察していると、単独行動する“ぼっち”もいれば、似たような形状の個体と群れる“リア充”たちもいる。オブジェクトを置くと真っ先に押しに来る好奇心旺盛な個体もいれば、目の前にフードを置いても気付かずに死んでいく個体もいる。
シンプルな見た目のCGではあるが、よく観察するとそれなりに個性を感じられる。個人的にシンパシーを感じる“ぼっち”の個体には積極的にフードをあげて延命したくなるが、甘やかしすぎるとニートになってしまうらしいので、それもはばかられる。また、アプリ内では個体ごとに名前を付けられるのだが、名前を付けてかわいがっている個体ほど死んでしまったりするのでつらさが増す(あくまで記者の場合)。
そして人工生命の寿命は10分前後と短い。滅亡と成長、増殖、進化を短期間で繰り返していく。設定を変えると個体ごとの寿命を表示することができるのだが、残り数秒で死ぬと分かっている個体の前にフードを置いても延命はできず、手を付けずにそのまま死んでしまったりする。
これらを繰り返しながら、何十体もの個体がうごめく箱庭を眺めていると、途中から“人間観察”をしているような何とも言えない気持ちになってくる。いろいろな性格の個体が、同一空間の中で思い思いに暮らしており、自然淘汰(とうた)されながら短いスパンで滅亡と増殖を繰り返す。プレイヤーは神の視点でちょっとした介入はできるが、何十体もいる個体全てを平等に扱うことは難しい。結局何もせずただ見守ることが生態系を崩さないことにつながるのではないかと思ったりもする。
生き延びるために学習を続ける人工生命を画面上で眺めていると、人間社会の縮図を見せられているような気分になる。もちろんCGでできた仮想空間上の人工生命と人間は全くの別物だが、人工生命を観察することで「地球という箱庭で、個性の異なる私たち人間はそれぞれどのように生きているのか」などと考えてしまう。ARTILIFEの世界に社会があるのかは分からないが、人工生命なりの社会生活をしているのかもしれない。それをどう解釈するかはプレイヤー次第だ。
人間は無生物を生物らしく感じるのか?
大垣さんはインタビュー動画の中で、アルゴリズムの部分や環境の部分は何も変えていないのに、グラフィックスがきれいになったりしただけでアルゴリズムも洗練されたかのように錯覚した、とコメントしている。つまり、人間の判断はかなり“見た目”に左右されるということだ。
ニコニコ超会議2019でも、大垣さんは「いまは人間が(無生物を生物っぽいと)受け入れる体制になっていない。30年後には、人間が無生物を生物らしく感じるのではないかという夢がある」と語っていた。
人間がその生物らしさを感じるには、グラフィックスが重要なのか、機械学習が重要なのか、それとも両方の合わせ技で達成するものなのかは分からない。
宮崎駿氏が「生命に対する侮辱」と言い放ったのも、本来なら単なるCGにすぎないものに生命らしさを感じたからなのかもしれない(宮崎氏が見たのはARTILIFEの人工生命とは全く見た目が異なるCGだったが)。
ARTILIFEは6月にサービスを終了してしまうが、ドワンゴの機械学習研究のこれからに期待したい。
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