「官民一体で大きなうねり作る」 経産省がAI人材育成に乗り出す理由
経産省を中心としたAI人材育成プログラム「AI Quest」が進められている。企業の課題を解決できる人材の育成を急ぐ。
政府は「AI戦略」(PDF)の中で、2025年までに高校・大学教育などを通じて年間25万人のAI人材を育成すると掲げている。
経済産業省の小泉誠課長補佐(商務情報政策局 情報経済課)は、「AI教育は体系化されておらず、変化のスピードも速い。(目標の達成には)官民一体の協力が不可欠だ」と話す。
経産省は、企業のビジネス課題を解決できるAI人材を育成するプログラム「AI Quest」(PDF)を民間企業と協力して進めている。
なぜ経産省が人材育成に取り組むのか。小泉課長補佐が、7月18日にメルカリ本社で開催された「AI人材トークイベント」で説明した。
深刻な講師不足 官民一体で取り組み
文部科学省が学校教育での育成事業に取り組む一方で、経産省は企業の課題を解決できる社会人の育成を後押しする考えだ。
小泉課長補佐は「AI教育はここ数年が勝負。AIを推し進める人材をいかに早く多く育成できるかが重要だ」と危機感をあらわにする。
即戦力の人材を育てる体制を早急に整えるため、同省は民間企業と協力して実践的なプログラムを提供するという。
具体的には、実際に企業が抱える課題やデータを基にした実践的な教材を作成。まずはAI活用にたけたエンジニアの育成を急ぐ。
「AI活用について教えられる講師の数が不足しているのが大きな問題。(ビジネスの現場で活躍している)いけてるエンジニアじゃないと、実践的な話はなかなか教えられない」と小泉課長補佐は指摘する。
同省がこうした政策を進める上で注目するのが、フランスの民間主導のプログラミングスクール「42」だ。問題をクリアするとオンラインサイト上での自分のレベルがアップするなど、ゲーミフィケーションの手法を取り入れた自主学習教材を使っているのが特徴。生徒同士で教え合う文化が醸成され、問題を作成する教務係10人で、年間1000人ほどのプログラマーを輩出しているという。
「(人材育成は)各社共通の問題。経産省がこれを後押しし、大きなうねりを作りたい」(小泉課長補佐)
まずは、AI開発のコンペティション運営を手掛けるSIGNATE、経営コンサルのボストンコンサルティンググループ、オンラインのAI教材を提供するzero to oneらと連携し、ケーススタディを作成して実証事業をスタート。2019年7月〜20年3月にかけて、育成に掛かるコストと育成した人材がもたらすビジネスインパクトを算出し、検証を進めていくという。
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