「わざと負けようとしても無理」と話題 プロも挑戦する“世界最弱のオセロAI”、生みの親に聞く開発の裏話(1/2 ページ)
AIベンチャーのAVILENが、強化学習を使ってAIを極限まで弱くしたブラウザゲーム「最弱オセロ」をリリース。AIが対局中に「あえて角を取らない」「石を少なく取る」といった行動を取り続けるため、人間は負けることが難しいゲームだ。生みの親である吉田拓真CTOに、開発した経緯を聞いた。
「負けられるなら負けてみてくれ!」――。AIの開発やAI人材の育成を手掛けるベンチャー「AVILEN」(東京都千代田区)は7月25日に、強化学習を使ってAIを極限まで弱くしたブラウザゲーム「最弱オセロ」をリリースした。AIが対局中に「あえて角を取らない」「石を少なく取る」といった行動を取り続けるため、人間は負けることが難しいのが特徴だ。このゲームを開発した、AVILENの吉田拓真CTO(最高技術責任者)は、Twitter上で「世界最弱」とその弱さをアピールする。
人気YouTuberのはじめしゃちょーさんが動画で紹介したこともあり、リリースから2週間で約100万回プレイされたが、AIの勝ちはわずか約3000回。オセロのプロではない一般人はどんな工夫をしても負けられず、ネット上では「あまりにも弱い」「わざと負けようとしても無理」と話題になっている。筆者も挑戦してみたが、何度やっても角を取るよう誘導され、圧勝させられてしまった。
吉田CTOは、このゲームを開発した背景について「大学生だった2年半前に、趣味と勉強を兼ねて約半年間で作りました。使用言語は『C++』のみです。その後はしばらく放置していましたが、ふと『Web上で公開して遊んでもらおう』と考え、少し調整してリリースしました。ユーザー数は100人くらいを想定していたので、反響には驚いています」と話す。
AlphaGoのオセロ版を目指していた
AVILENは20代の若手を中心としたベンチャーで、吉田CTOも東京大学大学院を休学して参加している。化学を専攻していたものの、プログラミングにはまったという吉田CTOは2017年ごろ、世界最強クラスの棋士を続々と打ち破っていた囲碁AI「AlphaGo」に興味を持ち、好きなオセロで再現したいと考えた。
「AlphaGoは、人間の脳を模した『ニューラルネットワーク』というアルゴリズムや、自分自身と対局を繰り返すことで強くなる強化学習の手法を採り入れています。これらの技術に興味を持ち、AlphaGoのオセロ版を作ろうと決め、勉強を始めました。最初は人間よりも強いAIを目指していました」(吉田CTO、以下同)
自分ならもっと弱くできる
そんな吉田CTOが「弱いAIをつくりたい」と思い立ったきっかけは、YouTubeやニコニコ動画でとある動画を目にしたことだった。その動画は、投稿者が「わざと負けようとするオセロ用AI」を構築し、人間と戦わせてみるという内容だった。
吉田CTOはそのコンセプトに引かれたものの、動画ではAIが勝つケースがやや多かったため、「自分ならもっと弱くできる」と開発を決意。ニューラルネットワークや強化学習を使って、自分の手でとことん弱いAIを作ることにした。
「コードの内容を言葉で説明すると、私が参考にした動画の投稿者は、オセロを『石を多く取った方が勝ち』と定義した上で、最も悪い手を打つようにAIを設計していました。一方私は発想を変え、『石を少なく取った方が勝ち』というルールの中で、最も良い手を打つAIを作りました」
設計の工夫もあり、吉田CTOが開発したAIは、自分自身との対局を繰り返す中でどんどん弱くなっていった。「最弱オセロ」は現在、角の1〜2つ隣のマスに積極的に石を置いたり、「石が密集しているが、1マスだけ空いている」といった状況をつくったり――といった戦法をよく使うが、これらは他のAIにはみられない動きだという。
関連記事
- 「すごくリアル」と話題――“アンドロイド演じるお姉さん”に聞く「似せる」ための苦労
企業のプロモーション動画やイベントなどで“アンドロイド役”を演じているモデルの高山沙織さん。昨年は3DCG女子高生「Saya」のコスプレ、今年4月には「不気味の谷」を再現した動画を公開し、ネット上で話題を呼んでいる。アンドロイド役を演じ続ける中で、どんな試行錯誤をしているのか。 - ディープラーニングは何ができる? エンジニア以外も知っておきたい注意点
第3次AIブームをけん引する技術である「ディープラーニング」。今回はディープラーニングを活用する上で知っておきたい基礎知識を紹介する。 - 「量子理論の副産物に過ぎなかった」──東芝の「量子コンピュータより速いアルゴリズム」誕生秘話
量子コンピュータよりも速い「シミュレーテッド分岐アルゴリズム」を開発した後藤隼人主任研究員に、開発背景を聞いた。 - 「コンピュータは星新一を超えられるか」 人工知能でショートショート自動生成、プロジェクトが始動
星新一さんのショートショートを解析し、質の高いショートショートの自動生成を目指すプロジェクトが始まった。人工知能研究の第一人者ととして知られる松原仁教授など6人がチームを組み、SF作家の瀬名秀明さんが顧問を務める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.