ソフトバンク、Arm、博報堂が合弁会社 日本企業のデータ活用を支援 “世界への遅れ”取り戻す
ソフトバンク、英Arm、博報堂が合弁会社「インキュデータ」を設立。企業のデータ分析・活用の支援を手掛けていくという。「日本企業は海外よりもデータ活用が遅れている」との指摘が出ていることを踏まえ、国内企業のデジタル化を進める狙い。
ソフトバンク、英Arm、博報堂は9月5日、企業のデータ分析・活用を支援する合弁会社「インキュデータ」を設立すると発表した。業種や部門を問わず、データ分析と、その結果を踏まえたマーケティング支援などを行っていく。「日本企業は英国や米国よりデータ活用で後れを取っている」とし、国内企業のデジタル化に商機を見いだす。
資本金は20億円。出資比率は非公開だが、ソフトバンクが50%超を占めるという。事業開始は10月1日を予定する。社長にはソフトバンクの藤平大輔統括部長が就く。取締役はソフトバンクが3人、博報堂が2人、Armが1人を派遣する。当初の社員は70人程度で、今後さらに採用を進める。
ソフトバンクは2012年からデータビジネスに取り組み、自動車メーカーや不動産会社などのデータ活用を支援してきた。同じソフトバンクグループ傘下で、18年にビッグデータ分析会社Treasure Dataを買収したArm、国内トップの広告代理店で、近年はデータマーケティングにも注力している博報堂と組むことで、この事業をさらに加速させるとしている。
ソフトバンクの今井康之副社長は、同日開いた記者発表会で「この10年で、世界の企業の時価総額ランキングが大きく変わった。上位にいるのはデジタル化に成功した企業だ。データを徹底的に活用する企業は繁栄し、そうでない企業は衰退する。この流れは日本企業にも当てはまる」と指摘。
「日本企業は“データGDP”(データの国内総生産量)で世界11位に落ち込んでいるとの調査結果が出ており、この状況から挽回しなければならない。データマーケティングによって、それを支援するのが新会社の役割だ」(今井副社長)と意気込んだ。
丁寧なサポートで「早期に数百億」の売上目指す
インキュデータが手掛ける顧客企業支援は、以下の手順で行う。
- 業務課題を抽出した上で、改善に向けたデータ活用の戦略を策定する
- 顧客企業にArmのデータ分析基盤「Arm Treasure Data eCDP」を導入してもらう
- 顧客企業、パートナー企業、ソフトバンク・Arm・博報堂が持つデータを同基盤上に統合する
- 顧客企業が同基盤を使って、自主的にデータを分析できるよう、ノウハウを指導する
- データの分析結果を基に、データを生かした新たな事業計画を策定する
- コンサルティングを交えながら、データマーケティングなどの推進を支援し、事業計画の達成を目指す
これらの手順をPDCAサイクルを回しながら進めることにより、顧客企業は既存事業の売上アップや、新規事業の創出が見込めるとしている。
データ活用を目指す日本企業はこれまで、戦略立案はコンサルティング企業、データの分析・管理はITベンダー、データを生かしたマーケティングは広告代理店――などと、工程ごとに異なる企業と組む必要があった。インキュデータはここに着目し、全プロセスを単独で請け負う点で差別化を図るとしている。
インキュデータは、支援の内容に応じて顧客企業から代金を得るビジネスモデルを採用し、早期に数百億円規模の売上高を目指す計画だ。事業が軌道に乗った場合は、グローバル展開も視野に入れているという。
「リクナビ問題」踏まえ、個人情報保護を徹底
インキュデータの藤平大輔社長は、「日本企業には、データを使ったビジネスプランを立案・推進できる人材が少ない。部門間でデータが分断されている企業や、素晴らしいツールを入れても半年後には使っていない企業もある」と世界に遅れた要因を指摘。
「新会社は、分析結果を事業活用にまで応用できる点が強みだ。顧客企業がこうしたケースに陥ることを防ぎ、デジタル化を進めて企業価値を高めたい」(藤平社長)と意気込んだ。
大きな可能性を秘めるデータ活用だが、8月には就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、他社から学生の個人情報を提供してもらい、内定を辞退する確率を算出していたことが発覚。法的・倫理的な観点から批判を集めている。
藤平社長はこの状況を踏まえ、新会社では個人情報保護法を順守する方針を強調。「データの帰属は顧客企業にあり、取り扱う上ではプライバシーポリシーに十分配慮する。サードパーティーデータ(ソフトバンク・Arm・博報堂のデータ)は全て匿名化した上で、統計情報のみを分析に使用する。信頼が失墜することのないよう、健全にデータを活用したい」と語った。
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