日本がAI後進国なのは“モノづくり至上主義”のせい――SBG孫社長が指摘 東大とタッグで挽回目指す
ソフトバンクグループの孫正義社長(兼会長)が「日本は『モノを作らないと立派な企業ではない』という思い込みがあり、AI開発競争で蚊帳の外になってしまった」と発言。AI後進国に陥った背景と、今後の展望を語った。
「日本企業は『(物体としての)モノを作らないと立派な企業ではない』という思い込みによって情報革命に後ろ向きになり、AI開発競争でも蚊帳の外になった」──ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義社長は12月6日、東京大学と共同設立するAI研究機関「Beyond AI 研究所」の発表会でこう話した。日本がAI開発で米中に遅れている背景に触れた上で、日本の競争力を高めるために同研究所を立ち上げることを力説した。
孫社長は1980年代の日本と米国が貿易摩擦で緊迫していた状況を振り返りつつ、「今は米国と中国がAI競争でトップ争いをしている。日本は後発で蚊帳の外の状態」と憂慮。日本がAI後進国になった理由の1つに企業姿勢があるとし、「インターネットも後発だったように、モノを作らなきゃ立派じゃないという企業の思い込みがあったことに一因がある」と指摘した。
今後日本が、AIの研究開発でさらなる発展を遂げるには、「モノづくり中心から情報産業中心へ経済構造の転換が必要だ」という。
加えて、教育現場にも原因があると孫社長は指摘。「今までAIを教える環境がなかった」とし、“脱・AI後進国”を果たすには「学びの場を提供し、基礎研究、応用研究を経て、きちんと事業化していくシステムを回さないといけない」と話した。
東大とAIに特化した「Beyond AI 研究所」を設立
それを実現するのが、2020年春に設立予定のBeyond AI 研究所だという。同研究所では、(1)量子物理や生体機能などに関する最先端の基礎研究、(2)研究内容の事業化やAI人材の育成、(3)研究から事業化までを一気通貫で行える体制の構築――などに取り組み、日本の競争力を高める方針だ。
研究の事業化には、経済産業省が新たに策定したCIP(Collaborative Innovation Partnership)制度を活用する。CIPとは、企業と大学がパートナーとなって研究機関を立ち上げた場合、成果が出れば研究機関を株式会社化し、研究を事業化できる制度だ。
SBGと東大は、Beyond AI 研究所で成果を上げて事業化し、事業で得た収益を研究所に還元することで、エコシステムを構築する考えだ。
「Never too late」
孫社長は、「産学官の連携にありがちな基礎研究のみではお金にならず、事業化していかないと新たな資金を調達できない」とし、「研究所の設立によって、学びの場や起業のチャンスを増やし、アイデアや資金も回っていくような拠点を作りたい」と話す。
日本の現状を憂慮しつつも孫社長は、今回の研究所設立を「日本のAI革命の入口」と表現。「確かにAI後進国だが、Never too lateだ(=遅すぎることはない)」と日本の展望に期待を込めた。
東京大学の五神真総長も、研究所の設立について「新しいものが好きなソフトバンクと組むことで、社会へ良いインパクトがあるのでは」と期待を寄せる。「研究や技術力を生かしビジネス化していく環境を大学が提供できる。AIを活用して社会的課題を解決できるような人材を育成していく」(五神総長)
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