共有空間でも好みの照明環境を 東大が多重化照明「Light'em」開発:Innovative Tech
画一的な照明だけでは仕事がしづらい。そんな環境でも自分好みの照明が使える方法。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
東京大学の研究チームが2019年11月に発表した「Light'em」は、同じ空間で複数の人がそれぞれ好みの照明環境下で過ごせる多重化照明システムだ。
Light'emを用いて、Bさんの邪魔をせず、Aさんが余計な明るい光を消した状態。Aさん視点だと手元はオレンジ色のデスクライトの光で、Bさん周辺は暗く見える。一方、Bさん視点だと自らの周辺は天井灯の明るい光で、Aさん周辺はオレンジ色のデスクライトの光で見える
高速で開閉するシャッターメガネと、高速に点灯状態を変化させる光源を同期的に制御することで、時分割により1つの空間で複数の互いに異なる照明環境(多重な照明環境)を実現する。
人間の視覚は、急速に点滅する光をあたかも連続光として認識する(臨界融合周波数/Critical Fusion Frequency、CFF)。この知覚を利用するため、点滅するタイミングと開閉するタイミングが重なるように、点滅する照明と高速で開閉を繰り返すシャッターを制御する。多重化された照明環境で強度、色、分布を操作できる。
これにより、「空間全体が白く明るい環境」と「自分の周囲のみ暖かみのあるオレンジ色で照らされた環境」のように、同じ空間で全く異なる照明環境を同時に実現できる。オフィスやリビングなどの共有空間で、複数の人が互いを気にせず照明状態を操作するなど、空間内の全ての人により良い照明環境を提供できる。実験では、同時に3人までを実証したが、さらに高速のシャッターを用いれば、より多くの人で同時に使用できる。
屋内環境の改善を考えると、同じ空間において、独立して制御できる照明環境は、視覚の面から、集中度や生産性の低下、疲労などの要因を緩和してくれるだろう。
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