NTTデータが政府系クラウドに本腰、AWSとの戦い方は? 武器は“マルチクラウド指向”のマネージドサービス(1/3 ページ)
NTTデータが政府系クラウド事業に本格参入。AWSが先行する同分野で、これからどう戦っていくのか。担当者に話を聞いた。
NTTデータは3月に、官庁や自治体などの公共機関に向けたクラウド基盤のマネージドサービス「Digital Community Platform」の提供を始めた。公共機関が使用するクラウドサービスの選定から導入、運用までをトータルでサポートし、デジタル化を推進するサービスだ。選定するクラウドサービスには、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure(Azure)などのパブリッククラウドの他、自社の金融機関向けクラウドサービス「OpenCanvas」も候補に含める。これにより、公共機関のニーズに応じてマルチクラウド/ハイブリッドクラウド環境の構築を支援する。
左から、NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部 デジタルコミュニティ事業部 第二ビジネス統括部 第二営業担当 渡邉靖隆部長、同事業部 古田正雄事業部長、同事業部 第二ビジネス統括部 第二営業担当 長野俊平課長
ただし現在、市場では中央省庁向けクラウドサービスを巡る争いがにわかに激しくなっている。政府が2018年6月に「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針(案)」を発表し、政府情報システムを整備する際にクラウドサービスの利用を第一候補として検討する「クラウド・バイ・デフォルト原則」を打ち出したため、クラウドベンダーは政府や公共機関などでの案件獲得に躍起になっているのだ。
その中で一歩抜きん出ているのは、やはり最大手のAWSだ。日本政府は既に、10月に運用を始める予定の「政府共通プラットフォーム」(各府省が個別に整備・運用していたITシステムを統合した新しいITインフラ)にAWSを採用する方針を固めている。この動きに対抗し、5月には富士通も政府系クラウドの分野に本格参入する予定で、22年度末までに100以上のシステムに自社のクラウドサービスを導入する目標を掲げている。こうした市場環境の中で、NTTデータはこれから、どのように戦っていく方針なのか。
Digital Community Platformをハブにしてマルチクラウドに対応
今後の戦略について、「(AWSベースのプラットフォームだけでは)政府公共機関のITシステムの要件を満たせないところがあります。そこをターゲットにするのがDigital Community Platformです」と語るのは、NTTデータの古田正雄氏(社会基盤ソリューション事業本部 デジタルコミュニティ事業部 事業部長)だ。古田氏によると、NTTデータは19年に同サービスの準備を始めており、4件ほど先行ユーザーを獲得できたという。そこで準備が整ったと判断し、サービスを本格的に始めたとしている。
政府が目指すITインフラの構造は、さまざまなIaaS、PaaS、SaaSを組み合わせ、必要に応じてプライベートクラウドも活用するというものだ。そのため、公共機関のシステムをオンプレミスからプライベートクラウドやパブリッククラウドへ移行する案件は、国内クラウド市場で今後さらに増えるとみられる。
そこでNTTデータは、Digital Community Platformの提供を通じて、公共機関のオンプレミス環境にあるITシステムを、それぞれの要望に適したクラウド環境に移行するニーズに応える。さらに、クラウドへの移行を終えたシステムを、他のクラウド/オンプレミス上にあるシステムと連携する作業も担うことで、他社との差別化を図る考えだ。古田氏は「(トータルなクラウド環境を)ワンストップで使えるようにするための、(政府系クラウドの)ハブとなれるサービスを提供します」と強調する。
パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミスを組み合わせると、各サービスの“いいとこ取り”ができる。政府のITインフラに当てはめると、(1)多くの国民が一気にアクセスするようなシステムでは、大手パブリッククラウドのオートスケール機能を活用して可用性を高め、(2)重要な個人情報を扱うシステムでは、高いセキュリティにも耐えうるプライベートクラウドを使用する――といった用途が考えられる。NTTデータは、各種クラウドサービスの導入・運用をサポートし、複雑なITインフラをまとめ上げられる存在(=ハブ)になることで、こうした用途の実現を目指す構えだ。
具体的には、Digital Community Platformでは複数のクラウドサービスから公共機関の要件に合ったものを選定・導入する他、さまざまなクラウドを組み合わせた際の動作確認をNTTデータが行う。クラウドごとに異なる運用管理の仕組みも、同社側で共通化を図る。
同社はこれまで、一般企業向けのマルチクラウド案件を通じて、顧客の要件に応じてAWS、Azure、Google Cloud Platform、さらにはOracle CloudやIBM Cloudなどを選定・運用するノウハウを積み上げてきた。これを生かすことで、公共機関特有の要件にも柔軟に対応するという。NTTデータの渡邉靖隆氏(社会基盤ソリューション事業本部 デジタルコミュニティ事業部 第二ビジネス統括部 第二営業担当 部長)は、自社には「(クラウドの)鑑定眼がある」と自信を見せる。
関連記事
- AWSジャパン、政府や地方自治体のクラウド化に照準 公共領域でのパートナー連携を強化し“首位固め”
AWSジャパンが2020年のパートナー戦略を発表。今年は公共領域を担当するパートナー企業の拡大に注力するという。これにより、中央省庁、地方自治体、教育機関、医療機関などへの拡販を目指す。 - 政府系クラウドに参入した富士通は、AWSとどう戦うのか? 狙いは「政府共通プラットフォーム」に載らないシステム
富士通が2020年5月から、政府向けクラウド事業に本格参入する。だが、この事業領域では、政府が「政府共通プラットフォーム」にAmazon Web Services(AWS)を採用する方針を固めるなど、外資系クラウドが先行している。こうした中での事業戦略を、富士通に取材した。 - 政府、情報システム基盤にAWS採用 高市総務相「セキュリティ対策も含め判断」
高市早苗総務大臣が「政府共通プラットフォーム」にAWSを採用する方針を明らかにした。国内各社のクラウドと比較・検証を行った結果、「セキュリティ対策なども含め優れていると判断した」という。 - 「Cloudn」を終了するNTTコムは、外資が席巻する国内クラウド市場でどう生き残る? 今後の戦略を聞く
AWSやAzure、GCPが国内クラウド市場を席巻し、国内クラウドベンダーは厳しい状況に置かれている。そんな中で生き残るために、各社はどんな戦略を採ればいいのだろうか。新連載「国内クラウドベンダーの生存戦略」の第1回目では、「Cloudn」の2020年末での終了を決めたNTTコミュニケーションズにフォーカスする。 - IIJの老舗クラウド「GIO」は、国内市場で存在価値を示せるか? AWSやAzureとの戦い方を問う
IIJは約10年間、クラウドサービス「IIJ GIO」を提供している。だが、この10年間は外資系クラウドベンダーの伸びが著しく、AWS、Azure、GCPが国内市場で大きなシェアを獲得した。IIJ GIOは今後、国内市場でどのように戦っていくのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.