EpicとAppleの対決で改めて考える「配信プラットフォームの役割」(3/3 ページ)
モバイル配信プラットフォームに突然反旗を翻したEpicの行動はどう考えるべきなのか。西田宗千佳さんが解説する。
「維持したい」プラットフォーマーと、「変えたい」勢力の争い
このように順を追って考えていくと、「配信プラットフォーム」がしていることには幾つものレイヤーが存在している。最も重層的な構造を持つのは家庭用ゲーム機であり、簡素なのがPC、という言い方もできるだろう。
App StoreやGoogle Play Storeは、PCの「オープンで誰もが開発できる価値」と、家庭用ゲーム機のもつ「安定的で安心できる販売環境」の両方のバランスを取ろうとした存在、といっていい。
だが、配信プラットフォームのあり方は多様化した。ゲーム機ですら、PCやスマートフォンの影響から、大手以外を排除するような構造ではなく、「個人や小規模に門戸を開く形」を用意し、いわゆるインディーゲームへの対応を行っている。
大手の中でも、レイヤー構造に不満をもつ企業が出てくるのも無理はない。「自分でできる」大企業なら、課金や消費者管理の機能は不要と思うだろう。審査も自分の責任で、と思うかもしれない。そうすると、最低限のプラットフォーム利用料で済ませたい、市場のコントロールも自分でやりたい……と考えるのも分かる。
こうしたことは、PCなら自由にできるが、スマートフォンではそうはいかない。特にAppleはとりつくしまがない。そこにEpic Gamesの不満があるのも分かる。一方で、レイヤーの多くはビジネスに必要なものだ。小さな規模の企業・個人であれば、プラットフォーマーがやってくれた方がいい。SteamやApp Store、Google Play Storeの登場は、小規模な開発者のビジネスモデルを大きく変えた。
「料率」は収益に直結する。だからこそ、プラットフォームを運営する企業はできるだけ関与度を高く保ち、料率を高く維持したいと考える。
その中でどういうバランスを取るべきか、そのバランスを引き出すためにプラットフォーマーとどう交渉するのかが重要だ。過去、料率は変わらなかったものの、「ストア外での決済」などについては、大手がAppleなどのプラットフォーマーと交渉しながら変えてきた部分がある。Epic Gamesは少々荒っぽく、性急なやり方にも思える。
一方で、場をコントロールするルールの「明確さ」「納得度」について、コンセンサスが得られているかどうかも重要だ。
プラットフォーマーの審査ルールへの不満は、「明確さ」についてのコントロールの難しさを示している。特に、文化・風俗に関わるルールの難しさや、クラウドゲーミングのような比較的新しい要素への対応、セキュリティ上の穴になりうる「アプリ内独自プラットフォーム」の存在についてはもめやすい。
本来なら、そうした価値観の違いについては「ストア=売り場を分ける」ソリューションで対応すべきなのだろう。
筆者は、プラットフォーマーはこの「多層化の課題を解消すること」により真摯に取り組むべきだと考えている。だが、安全性を維持した形で複数の価値観をもつストアを1つのプラットフォーム内に併存させる仕組みをどう作るのかは難しい。正論としては「複数あるべき」なのだが、プラットフォームを支配する側は作られたくない。また、プラットフォームが複数あっても、それを消費者が許容して成功するかどうかは未知数だ。
ゲーム機の定着から数えれば、プラットフォームビジネスの歴史は40年近くが経過した。App Storeモデルだけですら12年が経っている。そろそろ、このレイヤー構造に手を入れ、より良い共存共栄の形を見つけたいところなのだが。
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