東京五輪延期で「ロボットプロジェクト」はどうなった? トヨタと組織委に聞く
新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となった東京オリンピック・パラリンピック。国や東京都、トヨタ自動車らは大会に向け、ロボットをフル活用して大会運営を支援するプロジェクトを進めていた。同プロジェクトの現状はどうなっているか、関係者に聞いた。
五輪組織委員会は2019年3月に、国や東京都、トヨタ自動車などと共同で、ロボットを使って東京オリンピック・パラリンピックを支援する「東京2020ロボットプロジェクト」を発表した。トヨタらはその後、競技の運営や観戦をサポートするロボットの開発を進めたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会は延期に。AIや自動運転などのテクノロジーを搭載し、大会を盛り上げるはずだったロボットは今後どうなるのか。
ITmedia NEWSの取材に対し、トヨタの渉外広報部は「プロジェクトは現在、リスケ(延期)している状態」と説明。ロボットの仕様については「現行品でマイナーチェンジを図るか、1年間かけてじっくり改良するか」のいずれかだと話した。今後の方針については「組織委員会と連携して大会の今後を注視し、対応を検討したい」と述べた。
一方、組織委は取材に対し「1年延期によって時間ができたので、さらなるロボット機能の開発と実証実験を重ね、導入する方針」と回答。新機能は感染予防に配慮した「新たな観戦スタイル」を支援するものだというが、詳細については「公表前なので明らかにできない」「来年を楽しみにしていただきたい」とした。
五輪で使用予定だったロボットとは
組織委は当初、東京大会を「史上最もイノベーティブで世界にポジティブな改革をもたらす大会」と位置付け、その目玉として同プロジェクトを発表した。大会運営におけるロボット活用は平昌冬季五輪の一部で行っていたが、本格的な取り組みは初だった。
トヨタはその後、プロジェクトの一環で、体が不自由な人の試合観戦をサポートするロボット「HSR」(Human Support Robot)、「DSR」(Delivery Support Robot)、競技の運営をサポートするロボット「FSR」(Field Support Robot)の開発を相次いで発表した。
HSRは、タブレット端末、カメラ、伸縮性アームなどを搭載。人間と対話できる音声AIも備える。DSRは、棚に荷物を載せて運べる自動運搬ロボットだ。五輪では、車いす利用者がHSRのタブレットを操作して飲食物を注文・購入すると、DSRが商品を観客席まで届け、HSRがロボットアームで手渡すことを想定していた。
FSRは、ハンマー投げや円盤投げなどの陸上競技をサポートするロボット。大会スタッフの後ろについて移動し、選手が投げたハンマーや円盤を回収・運搬する。競技会場の地図データをインプットすると、障害物を回避しながら最適な経路を選択し、決められた場所まで戻る自律走行にも対応。回収時間の短縮とスタッフの負担軽減が見込めるとしていた。
トヨタはこれらに加え、大会公式マスコット「ミライトワ/ソメイティ」のロボット版も開発したが、大会の延期に伴ってデビューは先送りになった。
半数以上の企業が五輪開催に「否定的」
東京五輪の開会は2021年7月23日に決定し、開幕まで再び1年を切った。だが、延期の要因になったコロナ禍が収束するかは不透明だ。
大会の開催を巡っては、「IOC(国際オリンピック委員会)の幹部が来年の大会開催を明言した」という報道もあるが、組織委とIOCは今夏、追加経費削減のために大会を簡素化する方針で合意している。コロナ禍の前に想定していた規模での大会運営は難しく、感染防止の観点から無観客開催になる可能性も否定できない。
こうした状況を考慮し、巷では21年の開催に否定的な声も出てきている。東京商工リサーチが7〜8月、国内の1万2857社を対象に実施した調査では、五輪の今後の方針について「中止」を望んだ企業が最多の27.8%に上った。「再延期」は25.8%、「観客席を間引いて開催」は18.4%、「無観客開催」は5.3%。「予定通りの開催」は22.5%だった。
延期された五輪の運営方針はまだ定まっておらず、客入りの見込みも不透明だ。コロナ対策などの課題も山積している。だが、トヨタや組織委のコメントによると、コロナ対策機能を備えた改良版ロボットが大会で活躍する可能性は残されているようだ。
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