「けしからん発想」が創造性を生む 天才プログラマー・登大遊氏が語る「シン・テレワークシステム」開発秘話(1/3 ページ)
「SoftEther」の生みの親で“天才”と称される登大遊氏が、「CEATEC 2020 ONLINE」の講演に登壇。同氏が手掛けたシンクライアントVPN「シン・テレワークシステム」の開発秘話などを紹介した。こうしたサービスを次々に生み出せる背景には、若手時代に培った創造性があるという。
IT業界に身を置く人なら、情報処理推進機構(IPA)から「スーパークリエータ/天才プログラマー認定」を受けた「登大遊」の名を一度は聞いたことがあるだろう。高いセキュリティレベルと、高速なスループットを兼ね備えたVPNソフト「SoftEther」を開発し、2000年代前半からその名を轟かせてきた登氏は現在、IPAに所属するかたわら、筑波大学の准教授や、自らが学生時代に起業したソフトイーサ社の代表を務めている。
登氏はこれらの仕事に加え、4月1日付でNTT東日本に非常勤社員(特殊局 特殊局員)として入社。NTT東日本とIPAの共同施策として、シンクライアントVPN「シン・テレワークシステム」の開発に携わってきた。
シン・テレワークシステムは、ユーザーが自宅にあるPCに専用アプリをインストールすると、オフィスなどにあるPCを遠隔操作できる仕組み。無料で利用できるだけでなく、セキュリティ性能が高い点と、煩雑な利用手続きが不要な点が、コロナ禍において急な在宅勤務を強いられたビジネスパーソンから支持され、11月4日時点でユーザー数は8万6978人に上る。
そんな幅広いビジネスに取り組む“天才”登大遊氏と、同氏をNTT東日本に誘った山口肇征氏(特殊局 特殊局員)が、10月末にオンラインで開催された「CEATEC 2020 ONLINE」の講演に登壇。シン・テレワークシステムの開発秘話などを紹介した。
シン・テレワークシステムは約2週間で公開
講演で明かされたところによると、両氏が勤務する「特殊局」は、「β版→無償公開→サービス化」というプロセスで、サービスを素早く開発することに特化した組織。NTT東日本はこれまで同様のプロセスを採用しておらず、この部門ができたのは4月1日のこと。新型コロナウイルスの感染が拡大し、いつ緊急事態宣言が出されるか誰もがやきもきしていたころだ。多くの企業でリモートワークがスタートし始めた時期でもあった。
そんなときに登氏がNTT東日本に入社したきっかけは、特殊局の立ち上げ前に山口氏と出会って意気投合したことだという。山口氏によると、NTT東日本に非常勤という制度はなかったが、「登さんと仕事をしたい」という一心で約半年かけて社内調整を進め、制度を作って迎え入れたという。
そして登氏は、入社からわずか3日後の4月4日に、コロナ禍を踏まえて「リモートワーク用のシステムを作りたい」と提案した。これが後のシン・テレワークシステムになるわけだが、提案後すぐに社内稟議が通るなど、かなりの早さで準備が進んだ。実証実験としてリリースしたのは、提案から17日後の4月21日。開発費用は65万円だったという。
“爆速”でリリースできた技術的な要因は、SoftEtherのソースコードを利用していることや、以前から登氏が研究用として運用していたNTT東日本のダークファイバー(他者に貸し出すために敷設した光ファイバー)を利用していることだという。
開発費を抑えられた理由は、高価な大手メーカー製のハードウェアを一切用いず、約50台のRaspberry Pi、一般消費者向けのPC、「ヤフオク!」で落札したネットワーク機器などを使ったことだとしている。
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