ニュータイプになった初音ミクはどこへ向かうのか “VOCALOIDじゃないミク”の開発者に聞く(2/2 ページ)
VOCALOIDの代名詞と言っても過言ではない「初音ミク」が、VOCALOIDとは別のソフトウェアとして登場した。開発者の佐々木渉さんに開発の経緯や、新型ミクに込めた思いなどを聞いた。
CFMが目指す音
――初音ミク NTを開発する上で、どのような音を目指しましたか。
佐々木 今回の開発の目指すところは“初音ミクらしさの抑揚の拡張”でした。今までより多い声の素材、より多彩な声の表情を、ユーザーの方々にとって分かりやすくなるよう製品にまとめることが重要だったのです。
今後も定期的なアップデートで、その発展性を示したいとも思っています。VOCALOIDエンジンでは難しかった、歌声データベースのアップデートも細かく行っていけますので。
新デザインに込めた思い
――初音ミク NTのキャラクターイラストも、これまでのミクとは違うテイストになっていますが、どのような思いを込めたのでしょうか。
佐々木 初音ミクの衣装デザインも今までとの違いを表現する必要がありました。悩みながら落とし所を探っていった……というのが実際です。
初音ミクのデザインにはもともと、ヤマハのシンセサイザー「DXシリーズ」の意匠を取り入れてきました。今回は、イメージの焦点を“音の波”にまで抽象化しています。ここ十数年で生まれたDXシリーズをリスペクトした製品やシンセサイザーも眺めながら、ウンウンうなっていました。
結果的には、ミクらしく可愛らしいことや、気軽に眺めたときに愛らしさなどを感じてもらうことが重要と思いました。
私の方でコンセプトをかなり煮詰めてから、以前もパッケージイラストを担当したイラストレーターのiXimaさんと話し合いつつベースを作りました。ちょっと違ったシャープでエレガントな個性や意見を取り込むため、イベント用に初音ミクのイラストを描いたことのあるイラストレーターのRellaさんにもデザインにご協力頂きました。
結果、どこか違う角度の意見が交わっているような雰囲気にできたかなと思います。“完全”や“洗練”ではない何かと、自由さが欲しかったのです。
今の歌声合成ソフト市場での戦い方
――2020年に入って、他社から「CeVIO AI」「Synthesizer V AI」といったAIを活用した歌声合成が複数発表され、トレンドになっています。その中でどのように展開していきますか。
佐々木 AI歌声合成ソフトの開発やリリースがトレンドであり、進化していることも理解しています。
初音ミク NTは収録した音声波形を切り貼り・加工して音声を合成する「素片接続」という仕組みのソフトです。操作性と自然さのバランスという意味で、見習わないといけない部分が多くあると思います。
他方で、人間の歌声を再現するAI歌声合成ソフトが、生のグランドピアノの音色を目指すようなものだとしたら、われわれは初音ミク NTでエレクトリック・ピアノを目指しているともいえます。
この方針では、歌唱を機械的にも抑揚たっぷりにもできるところにメリットがあります。うまくユーザーに使ってもらえるソフトにすると同時に、操作の難しさは拭い去っていかなくてはという難しさもあります。
今は配信者による「歌ってみた」やVTuberによる歌唱など、さまざまな歌があふれている時代に突入していると思います。「歌で表現すること」への興味関心や参加意識が高くなっている今、リスナーの琴線に響く表現も多様になっていくでしょう。
歌声合成ソフトもそういったクリエイターの表現にどう寄り添えるかが重要かと思います。
今後の開発計画は
――今後の開発計画についてお教えください
佐々木 まずは初音ミク NTやPiapro Studio NTのアップデートを進めます。使っていただいたクリエイターの声とも照らし合わせつつ、拡張表現のリリースや、GUIの最適化も進める予定です。
自社開発になったことで、システム面から突き詰められる部分が多くなっています。まだ試したいアイデアもありますので、アップデートはしっかり行っていきます。並行して、他のキャラクターの音源制作や実験も試していく予定です。
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