NHKの公式note開始は“成り行きの未来”との決別になるか(5/5 ページ)
ネットの普及などで新聞・テレビの時代の岐路に立たされている中、NHKは12月、「note」に公式アカウントを開設。元NHK記者が内部文書や現役職員への取材から公共メディアの未来を読み解く。
全てはスマホ画面の中に溶けていく
メディア業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)を軸とする改革が、報道現場の働き方改革と同時並行で進んでいる。
テレビ局であるNHKが、政治マガジンを筆頭にWebの特集記事や、今回の「取材ノート」のように活字に張り出している一方で、例えば朝日新聞は動画制作のレベルをぐんぐんと上げている。
もはや放送記者と新聞記者の境界は溶けてなくなっていくだろう。家電としてのテレビも、媒体としての新聞紙もなくなっていく。全てはスマホの画面の中に溶けていく。
「取材して聞いたものを出す。報道の原点に近づいている」
NHKが取材ノートを開始したことに対し、取材ノート編集部の若手記者はどう見ているのだろうか。
筆者が杉本記者に取材ノートの魅力を尋ねると「Web記事やnoteで出せる機会があると、取材している段階から、ちょっとした取材先の言葉を書き留めたり、街を歩きながら『挿絵として使えるかも』とスマホで写真を撮ったり、取材への向き合い方も変わってくる」という答えが返ってきた。
「これまで取材したもののごく一部しか伝えられなかった」といい、特に地方局時代は「こんなに面白い話があるのに放送で出せないなら取材しても意味がないと思ってしまったこともある」と話す。
「ネットでどう出すかを念頭に置きつつ、『番組だったらこう伝える』『ニュースだったら特ダネとしてこう出す……』という考え方に変わっていく。まずネットで出すとしたらどうなるかと考える機会が増えていく」(杉本記者)
また、小倉記者は「Web記事の場合はテレビと違い、ダイレクトに反応があってうれしい」と語る。「今まで、本当に伝えたいことがちゃんと伝わっているんだろうか」「一方的に伝えることになっていないか」などという疑問をずっと抱えていたという。
しかし、Web記事では「読者が記事を読んでどう感じたのか、考えたのか、反応を得られることがすごく大きくて、それが違う取材にもつながっている」といい、「メディアが伝えたいことを出しっぱなしにするのではなく、きちんと届いているのかどうか確認しながら伝えていく。noteの活用などでそういうことができていくのではないかという期待がある」と意義を述べた。
若手記者のこうした意見に対し、足立デスクは「Webを担当していて思うのは、ジャーナリストの原点、記者としての原点に帰るという思考が強まっているということ」と指摘。
「NHK記者として2〜5年目になってくると『ここで抜けが……』とか、『ここでシーンが上がる』みたいに映像作家思考、ディレクター思考になってくる」といい、「取材したものを出す、聞いたものを出す……という報道の原点にどんどん近づいている。それが記者の本分」と若手記者の意見に賛同した。
“伝送路”が変われば、ユーザーや伝え方、届け方も変わる
「NHKは作るのは得意だが、届けるのが下手だ」と言い切ったのは「注文をまちがえる料理店」のプロジェクトを手掛けた敏腕ディレクターの小国士朗さんだった(現在は独立)。
これは、NHKスペシャルなどの番組を「作品」と呼び、NHKの内輪で評価し合う傾向があることへの警鐘でもあった。
一方で、ユーザー目線偏重になり過ぎるとPV至上主義に陥りやすいという罠も待ち構える。デジタルはユーザーの興味関心を可視化するからだ。コンテンツが獲得する数字と収益が直接結びつかないNHKだからこそできるデジタル時代の報道がある。
コロナ禍に覆われた2020年は、メディアへの信頼がさらに大きく揺らいだ一年でもあった。検事長と新聞記者らの「賭けマージャン」は、象徴的な事件だった。ちまたにあふれる「マスゴミ批判」の中には耳を傾けるべきものも少なくない。
低俗コンテンツの氾濫、フェイクニュースの増殖の懸念が、日本でも今後ますます強まっていくだろう。日本のメディアの未来の中心で、NHKがどういう役割を果たしていくのか。迎える2021年も注目したい。
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