約40万台の電動自転車が空き地に放置 ユーザーから“借金”も 中国シェアサイクルのトンデモ事情(2/2 ページ)
コロナ禍以降、中国の都市では電動自転車のシェアリングサービスが急拡大。数多く街を走っている。だが車両が増えすぎた影響で管理がずさんになり、中国湖南省の省都・長沙では、約40万台が空き地に放置されているという。こうした中国シェアサイクルの実情を、現地の事情に詳しいジャーナリストの山谷剛史氏がレポートする。
こうした問題も、企業が車両を投入しすぎたことが原因だ。中国でシェア電動サイクル事業を展開している企業をみてみると、2020年10月の時点で市場シェアトップは滴滴(Didi)が運営する「青桔単車」。2位は阿里巴巴(Alibaba)系の「ハローバイク」、3位はECプラットフォームを展開する美団(Meituan)の「美団単車」だ(中国の調査会社analysis調べ)。
青桔単車はエメラルドグリーン、ハローバイクは青、美団単車は山吹色がイメージカラー。長沙市の空き地に集められた電動自転車も、この三色で占められていたという。運営元の企業はれっきとしたIT大手だが、「問題が発生するまでは大量にサービスを投入してシェアを確保する」「問題が発生したらその時に対応する」という考えが染み付いており、社会問題につながっているようだ。
こうした価値観は料金設定にも表れている。調査会社iResearchによれば、シェア電動サイクルの原価(車両の代金)は1台5000元(約7万5000円)ほど。利用料は日本のそれより安く、1回当たり約2〜4元(約30〜60円)だ。路線バスの代金は1回当たり約2元で、中国の交通価格からみれば特別に安いものではない。だが、1日に5人前後が利用すると仮定しても、回収には1年ほどかかる試算になる。後先考えず、勢いだけが目立つビジネスだといえよう。
ユーザーからの“借金”を返せない企業も
薄利多売のシェア電動サイクルが、それでもビジネスとしてまかり通る背景には、もうけるよりも資金調達による事業拡大を重視する中国スタートアップ界隈の風潮がある。シェア上位の大手企業はまだましな方で、中には投資が先行するあまり、サービス提供がままならなくなったofoという会社もある。
ofoは当初、賃貸住宅の敷金のような形で、ユーザーから利用料に加えて「デポジット」(保証金)を預かっていた。「取りあえず資金があればなんとかなる」という楽観的なビジネス観で、ユーザーから得たデポジットや、投資家から調達した資金を元手に車両を大量生産していたが、ユーザー増加が思うように進まず、借金だけが膨れ上がった。
返金規模も規格外の中国サイズだ。ofoが返金しなければいけないユーザーや投資家は、20年12月の時点で1650万人に上るが、返金ペースは非常に遅く、この調子でいくと完済まで988年かかるのだとか。同社のサービスは現在ほぼ稼働しておらず、「借金を返せるのか」という観点でしか話題にならない。
シェア電動サイクルは今後も中国各地の都市に投入され、さまざまなトラブルの火種になりそうだ。時には、自治体から規制を受けることもあるだろう。事業者はトライアンドエラーを繰り返しながら安全なサービス運用を目指すわけだが、それが利益を生むかは誰にも分からない。
DidiやAlibabaのように、トラブルを起こしながらもシェアを獲得できれば、収支はいつかプラスに転じる。一方で、無計画に車両を増産し、資金を回収できずにいるプレイヤーは、ofoのように借金まみれの結末を迎えるだろう。良くも悪くも先行きから目が離せないのが、中国の自転車ビジネス事情の面白いところだ。
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