中国で普及する信用スコアは、なぜ日本で定着しない? 「Yahoo!スコア」終了に思うこと(1/3 ページ)
ヤフーの信用スコアサービス「Yahoo!スコア」が8月末に終了する。多くのユーザー基盤を持つヤフーが手掛けたにもかかわらず、このサービスは日本に定着しなかった。一方、中国では、数年前から「芝麻信用」が普及している。なぜ日本と中国で、こうした差が生まれるのか。中国に精通する筆者が、その要因を考察する。
ヤフーが6月末に、利用者の信用度を数値化するサービス「Yahoo!スコア」を8月末に終了すると発表した。ヤフーはサービス終了の理由について「現在の状況を総合的に勘案した結果、お客さまやパートナー企業に満足してもらえるサービスの提供に至らないと判断した」と説明している。
Yahoo!スコアは、利用者の信用スコアを算出した上で、同意を得てパートナー企業に提供する仕組み。スコアが高い人は、人材系サービスで優先的に仕事のオファーが受けられるなど、ヤフーのパートナー企業から優遇されるとしていた。
信用度は「Yahoo! JAPAN IDにひもづくビッグデータを基に、機械的に推定・算出する」とし、「本人確認」「信用行動」「消費行動」「Yahoo! Japanサービス利用」の4ジャンルにおける行動データなどが分析対象だった。
ヤフーは分析するデータの選定基準には気を配っており、ヘルプページには「スコア化することで不当な差別につながる可能性がある情報(要配慮個人情報、性別や職業など)は使用しません」と書かれている。
だが、多くのユーザー基盤を持つヤフーが手掛けたにもかかわらず、このサービスは定着しなかった。
中国では「芝麻信用」が普及
一方、中国では数年前から、Alibaba系の金融企業Ant Financialが手掛ける信用スコア「芝麻信用」(ジーマクレジット/ゴマ信用)が普及している。Yahoo!スコアは、公式には「信用スコア」とは名乗っていないが、サービスの設計には、多くのユーザーを抱える芝麻信用の影響が少なからずあったと思われる。
その芝麻信用は今も堅調。同じ大企業が手掛けるサービスでも、日本と中国で明暗が分かれてしまったわけだ。この差はどうして生まれたのか。
その理由を考察する前に、中国の信用スコア事情を詳しくみていこう。
中国の信用スコア事情とは
中国の信用スコアは、地方政府などが展開しているものと、芝麻信用のような金融事業者が展開しているものに分けられる。前者は地域住民の行動をスコア化することで、あるべき行動をとるように管理する。後者はクレジットカードの代替となり、決済サービスなどの利用時に個人の信用度を証明する。
地方政府系の信用スコアは、一部地域で新型コロナウイルス対策として使われた。パンデミックとなった武漢に医療スタッフや医療物資や義援金を送った人はスコアが上がり、新型コロナ対策に非協力的だったり、ネットでデマを流したりした人はスコアが下がる仕組みだ。スコアが上がれば行政手続き審査が省かれ、競売などでも有利になる。逆に、スコアが下がれば審査に時間がかかり、ビジネスなどで不利に働く。
一方、芝麻信用に代表される民間企業の信用スコアは、クレジットカードが普及しきっていない中国において、与信サービスとして登場した。
金融企業系の信用スコアを上げるには、個人情報を入力する必要がある。家や車の所有状況、水道光熱費の引き落とし状況、出身大学といった個人情報を入力すると、スコアは顕著に上がる。クレカの与信を勤続年数や年収で判断するのと同様に、そういったステータスが、個人の信用度を推し量る上で重要とされているからだ。
一方で、「淘宝網」(Taobao)や「天猫」(Tmall)などのECサイトでの購入記録や、「Alipay」アカウント間の送金実績など、一般的な消費行動のデータを入力しても、その上昇は微々たるもの。いくら買っても、全くスコアが変化しない時もある。購入行動の履歴は信用スコアの運営元から補足的存在と見なされている。
ユーザーがウソを入力する恐れがあるので、信用スコア事業者は審査を行っている。中でも、芝麻信用は審査の際にウソを見破れるため、他のサービス事業者から与信面で信用されている(もちろん、アリババブランドだからというのもあろうが)。
中にはごまかそうとする人もいるようで、中国の検索サイト「百度」(Baidu)のQ&A掲示板「百度知道」では、ユーザーから「登録時に虚偽の情報は入れられるか」という質問があったが、「無理」との回答が寄せられている。
いずれにせよ、金融企業系の信用スコアでは、ユーザーが個人情報を入れることで数値が高まり、それを提携企業が参照して、ユーザーを信用できるか否かを判断するわけだ。
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