コロナ禍でマクロレンズが売れた 「CP+ 2021」で見えたカメラの今:荻窪圭のデジカメレビュープラス(2/2 ページ)
CIPA(カメラ映像機器工業会)の人が様々な統計データを見ながらカメラ界の動向を解説してくれる「マーケティングセミナー」が面白かった
コンパクトで軽くて寄れるレンズに注目
各社エンジニアが登場するパネルディスカッションのテーマはミラーレス一眼。
毎年恒例のセッションだが、今回はパネリスト達もリモート参加。
司会は日本カメラ財団の市川泰憲氏。各社の代表者にどんどん質問を投げかけながら進めていくわけで、けっこう鋭く各社の製品や戦略につっこんでいてカメラ好きにはたまらないディスカッションだったのだが、近年の動向として注目したいのは2点。
まずはコロナ禍の影響だ。
1つはマクロレンズが売れたこと。交換レンズメーカーのシグマは特にヨーロッパでマクロレンズがすごく伸びた。同じくレンズメーカーのケンコー・トキナーはクローズアップレンズがアジアで400%、日本でも130%くらいの伸びを示したという。
出かけられない分、身近なものを撮る機会が増え、近距離撮影に向いたレンズが動いたということだ。
パナソニックはビデオコンテンツのSNSへの公開が増えた点を特徴として挙げた。在宅時間が伸びたことで家から動画を配信する人が増え、それに伴ってクオリティを求めてカメラを買う人も増えたということだろう。
ちょうどVlog向けをうたうカメラが登場したタイミングが合致したのかと思う。
もう1つはミラーレス一眼のボディとレンズの小型化という傾向。2020年はよりコンパクトなフルサイズミラーレス一眼とコンパクトなレンズが出てきた。
注目はソニーの「α7C」。フルサイズのカメラが欲しいけれども、大きさの点で躊躇(ちゅうちょ)するという客のために市場を活性化させたいということで新しいシリーズをスタートさせた。「α7III」とは違う層が購入しているという。
もう1つはレンズ。これはわたしも注目したい点で、フルサイズのミラーレス一眼が登場したときは、クオリティ追求のためのハイエンドレンズが中心で、一眼レフ時代よりボディはコンパクトになったもののレンズが大きく重くてトータルとしてはそこまで小さくならなかった。
そこに小型軽量のレンズが登場してきたのだ。
沈胴式レンズはニコンとソニーから。ニコンは、画質を上げようとするとレンズの全長が伸びてしまうので、携帯性を確保するために沈胴式にしたという。
同時にミラーレス用のレンズで“寄れる”ものが増えてきた。
キヤノンは24-105mm F4-7.1でハーフマクロの撮影ができるし、シグマの24mm F3.5もすごく寄れる。周辺部の性能は落ちるがその分寄れるレンズが出てきた点にも注目。
シグマの大曽根康裕さんは「フィルム時代は複写という概念があったが、デジタルになってその呪縛から逃れられた」という。そしてハーフマクロのようにカジュアルに寄れるレンズが出てきた。とくに「ミラーレス一眼になって設計の自由度が上がったことで、マクロの世界が広がったといえるのではないか」と話していた。
パナソニックが新しく発表したコンパクトな「S70-300mm F4.5-5.6 MACRO」は300mm時で最大撮影倍率0.5倍のハーフマクロを搭載しながらコンパクトに収まっている。
まとめると、ただでさえ縮小していたカメラ市場はコロナ禍でさらにがくんと落ちて“泣きっ面に蜂”状態(2021年は前年よりは伸びる予想だがそれでもコロナ禍前には達しない感じ)で、細かく見ると、女性比率の低下と高年齢層化が顕著に表れててちょっとつらい。
さてまたマーケットセミナーの話にちょっと戻る。
マーケットセミナーでは、2019年と2020年のカメラユーザー調査の結果として、よく撮影する対象のベスト5から「旅行」が消えた代わりに、「花」や「植物」「子供」「ペット」といった身近なものを撮る機会が増えたことが分かる。
マクロレンズが伸びた理由の1つだろう。
さらに高年齢化が進んでいるが、コロナ禍以前とコロナ禍で撮影に対する意欲がどう変わったかという調査に対して、ほとんどの層が「撮影意欲が低下した」とあるのに対し、10代はじゃっかん撮影意欲が上がっているし、10代と20代は写真を撮る意欲がある割合が多い。
より身近なものや人、日常を撮ることが多い年齢層といえるわけで、Vlog向けのカメラってのはそこをうまく捕まえたっていえるんじゃないかと思う。
結論としてはかつてコンパクトデジカメが拡げた層がみんなスマホに流れたのはもうしょうがない。今度はスマホで写真を撮り始めた層にデジタル一眼ならではの良さを味わってカメラの世界に来てほしいし、潜在的なニーズはありそう、というところだろうか。
これ以上高年齢化が進むのは残念すぎるから。
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