Clubhouseはラジオ業界の“黒船”か 番組制作の現場の視点は(3/3 ページ)
音声SNS「Clubhouse」をラジオ業界の人はどう見ているのか。TBSラジオの担当者2人にインタビューした。
Clubhouseは「行儀の良いコンテンツ」が多い? ラジオにも課題あり
そうした過去があるからこそ、橋本さんはClubhouseに期待を寄せている。Clubhouseは一般人が気軽にルームを立ち上げ、好きなテーマで気軽に配信できる利点があるからだ。
橋本さんが担当するTBSラジオ番組でも Clubhouseを番組制作に活用したことがあるという。「Clubhouseの特徴の一つはライブで予想もつかないメンバーの偶発的な組み合わせによるトークが発生すること」と捉え、2月上旬、生放送中にClubhouse上に突然トークルームを作った。「今、番組関係者ですぐに番組に出られる人いますか?」と募ったところ、即座に数人の関係者が集まり、ルームの音声を放送に乗せてトークした。
ただ、数々の番組を手掛けてきたプロデューサーの目からはClubhouseのコンテンツに物足りなさも感じているという。橋本さんは「Podcastも含めて(音声コンテンツに)参入しやすくなったのがClubhouseのいいところ」とする一方、「YouTubeは違法に近いものも含めてある種、ユーザーが作り上げる文化として許容し、ボトムアップに利用してきた。Clubhouseはまだ行儀の良いコンテンツが多いので、もっと無法地帯っぽいコンテンツが溢れてくると良いのに」と指摘する。
音声メディアの代表格といえるラジオだが、その歴史は生放送を中心としたものだ。このため、業界全体として、生放送以外のコンテンツに弱点を持つ。制作現場での経験が長い橋本さんも「ラジオ局は生放送のプロ集団ではあるが、音声コンテンツ全般のプロではなく、作りこんだコンテンツを作れる人は少ない」とその点を認めた。出演するタレントは多い一方で、番組制作のプレイヤーが少ないという業界全体の課題もあるという。
橋本さんは「ラジオ業界にはアイデアはあるはずなのに、まだまだコンテンツを作り切れていない」とし、「コンテンツ制作はプロが引っ張りつつ、Clubhouseで人気の配信者がいればその人に番組作りに関わってもらうなど一般の人が表現を自由にしていく。発想を柔軟にしないといけない」と持論を述べた。
それぞれが別のサービスであることから現状はClubhouseからラジオの生放送への誘導もうまくできていない。そうした課題への対処案として、橋本さんは「radikoにClubhouse機能が搭載されるようなイメージで、聴取と投稿が同じツールに集約されると聞く側としても良い体験になるのではないか」と提言する。
アプリ同士の連携は難しくても、間接的な集約は可能だとする。radikoのタイムテーブルを各局がClubhouse用に空白にし、Clubhouseでの配信内容をそのまま放送するような形式だ。実際、YouTubeは一般人の投稿だけでなく、一部でテレビ局がニュース番組を地上波と同時配信する取り組みも始まっており、映像コンテンツの“総合プラットフォーム”になりつつある。
技術的には通常の生放送とClubhouseとの同時配信も可能だといい、橋本さんは「そうすることで制作費も少し削減できるのではないか」と笑う。
「ラジオという言葉を古くしたくない」
Clubhouseに加え、現在はTwitterが「Spaces」(スペーシズ)の本格展開を予定しており、今後も音声コンテンツに人々の注目が集まると予想される。音声コンテンツの発展のためにはこれらのサービスだけでなく、ラジオ業界も魅力的なコンテンツを発信し続けることが欠かせない。
福井さんは「(テレビのような)映像コンテンツはリッチで、音声は『何かもの足りない』というイメージを抱かれがち。そうではなく、『ラジオを聞いてないともったいない、損してるぞ』ということを発信していきたい」とした。
橋本さんは「自分はラジオという言葉を古くしたくない」と話す。「音声は世の中から消えることはなく、再定義するいいチャンスが来ている。変に対抗意識を持つのではなく、マイノリティーに寄り添いつつ、時代にもアップデートして両方のバランスを取りながら新しいものを作っていきたい」
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