Clubhouseに見る中国製SaaSとの付き合い方 有効活用と検閲リスクのバランスが重要に
日本でも話題になった音声SNS「Clubhouse」だが、音声通信の基盤として中国Agoraのシステムが使われており、中国当局による検閲リスクが指摘されている。力を付けつつある中国製SaaSの上手な活用法をいまこそ考えるべきだ。
リリースされるや、ちょっとしたブームとなった音声SNSのClubhouse。開発元のAlpha Explorationは米国企業だが、このサービスの肝となる音声配信の実現には、「Agora」(上海兆言網絡科技有限公司、通称「声網」)という中国企業が作ったクラウドベースのシステムが使われている。
流行の陰で、音声が中国当局に検閲されるのではないかという懸念もある。米スタンフォード大学の研究機関「スタンフォード大学インターネット観測所」によると、Clubhouse上の音声は、Agoraの中国サーバを通っており、中国当局が音声にアクセスし保管する可能性があるという調査結果を発表している。
確かに中国の網絡(ネットワーク)安全法では、中国サーバにデータを6カ月以上ログを保存することを要求している。Agoraも法に基づいているならば、Clubhouseでもログが6カ月以上残され、当局の要請次第では、そのデータを傍受されることも可能性としてはある。
無料通信アプリ「LINE」でも、ユーザーの個人情報を十分な説明なくLINEの中国子会社に共有していたことが分かっているが、これにも網絡安全法が絡んでくる。LINEの出澤剛社長は、この法の存在によって当局がチェックできる可能性があったことを認めている。
中国政府の検閲は、情報を自動的にフィルタリングし、問題のある内容を人力でチェックしている。しかし、日本語や英語についてフィルタリングをしたうえで反政府的な外国人を発見したという話は聞いたことがない。そんなにナーバスにならなくていいのではないかというのが個人的な見解だ。
力を付けつつある中国SaaS
Agoraには確かに検閲のリスクがあるが、一方でClubhouseを使えば分かる通り、その実力は折り紙付きだ。Agoraは2020年6月に米Nasdaq市場に上場。100以上の国家の1万以上のアクティブアプリでAgoraのシステムが使われている。中国国内では多くのClubhouseクローンが登場しているが、これらもAgoraやその競合製品があったからこそ爆速で作れたといえる。
もともと中国ではAgoraのシステムが17年ごろからオンライン教育やライブコマース、ショートムービーアプリなどさまざまなサービスで使われ始めていた。Clubhouseの一件でAgoraもニュースメディアで紹介され、世界的に知る人ぞ知る企業になりつつある。
筆者は仕事柄、中国のスタートアップ企業を日々チェックしているが、SaaS系だけでも資金調達のニュースなど明るい話題がよく報じられている。20年の中国におけるSaaSスタートアップ資金調達は1年で134件、調達額は合計157億元(約2650億円)に上る。
一方、2020年における日本のSaaSスタートアップ資金調達は155社、調達額は合計744億円。あくまで資金調達額に3.5倍程度の差があるという比較だが、それだけ中国で裏方のソフトウェアたるSaaSは勢いがあるともいえる。
中国IT業界は、スマートフォンやドローンなどのハードウェアから、TikTokやゲームなどのアプリ、シェアサービスやキャッシュレスなどの各種サービスまで、成長著しい。こうした企業の裏方として、SaaS系のスタートアップもまた力をつけている。
開発競争上のリスクと検閲のリスク
ClubhouseとAgoraのように、高品質なサービスを素早く開発するために、中国で鍛え上げられたシステムを使いたい場面もあるだろう。一方で中国のクラウドサービスを採用すればClubhouseのように「中国当局に見られているのではないか」という懸念が発生しうる。自前で開発している間に世界の競合他社が中国製SaaSを採用して爆速で開発するというビジネス上のリスクと、中国当局による検閲のリスクを毎回てんびんにかけないといけなくなる。
導入の判断基準はこうだ。中国当局はこれまで、当局を敵視する言論に対して厳しい姿勢をとっているとともに、産業スパイ的な行為も行ってきたといわれている。そういった情報や機密をやりとりしないなら、中国製SaaSの利用にナーバスになることはない。
例えば、個人情報を扱わないような教育やスポーツ、ゲームなどにパーツとして利用するぶんには悪影響もないだろう。中国製SaaSが今後、さらに便利なツールとなるのは間違いない。リスクを最小化しつつ、メリットを享受できるような仕組みを考えて導入できれば、強い味方になるはずだ。
日本企業は中国サーバを介すSaaSとどう付き合っていくべきか、具体的に考えたほうがよさそうだ。
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