“鳳凰”と呼ばれる時計──虹色の魔法を使う幻想の「G-SHOCK」:矢野渉の「金属魂」特別編
見る写真によって色が大きく異なる“鳳凰”。これが表面処理のマジックだと分かったのは、届いた製品を撮影台に置いた時だった。
今度撮影することになったのは、伝説の鳥、ブルーフェニックス(鳳凰)をイメージしてデザインされた時計らしい。ネットで画像を検索してみるが、どうもイメージがピンとこない。写真によって色が大きくブレているからだ。本体が届いてから写真を作っていくしかない。
これがレインボーIP(イオンプレーティング)のマジックだと分かったのは、届いた鳳凰を撮影台に置いた時だった。
ライトブルーを基調としたベゼル部分は、面光源を写り込ませるとかなり明るく写るが、白のボードを写り込ませると沈んだ感じのブルーになる。このブルーは、「高温の炎」のイメージらしいのだが、いろいろ試しているうちに本当の色を見失ってしまうのだ。
そこで僕は“印象色”で写真を撮ることにした。印象色は写真用語で「人がイメージとして記憶している色」のことだ。“記憶色”ともいう。
デジタルカメラで仕事を始めた20年ほど前、随分と苦しめられた問題だ。ホワイトバランスをしっかりと取っても、なぜか色が沈む。これはカメラメーカーに原因があった。当時は色のデータを全く持っていなかったからだ。
その後、フィルム時代からの色データを持ったメーカーが出てきて、印象色を標榜した。その時から僕はこのメーカーを使っている。
鳳凰のように難しい撮影素材は、カメラに任せるに限る。フィルムシミュレーションモードを選んで、あとはカメラが一番きれいなライトブルーを演出してくれるだろう。
僕がしたことといえば、バックにアンバー(琥珀色)系の物を使ったこと。ベゼル部分がブルー→ピンク→アンバーと変化していくので、バックをアンバーにすることによってブルーをより引き立たせた。昔からの定番の組み合わせだけど、ブルーとアンバーは本当によく合う。
等倍撮影で細部を見ていこう
おそらくこの鳳凰の肝であるレインボーIP部分。IPは、金属にチタン皮膜を蒸着させ、傷に強い表面を作りだす。調整によって多くの色味が出せるのも特長で、ここもブルーの上に赤系、その上にさらに黄色系と手が込んでいる。しかも美しい。
ここだけ等倍で見ていると何か“鳳凰”を感じる瞬間がある。現れると良いことが起こる前触れだとされる鳳凰を。たぶんデザイナーはこれがやりたかったんだな、と思う。
それにしても、どうしてこんな自由な発想の時計が世に出せるのだろう、と撮影しながら考えた。おそらくそれは、G-SHOCKが積み重ねてきた年月、歴史の奥深さなんだろう。それは一朝一夕にできることではない。たぶんCASIOにしかできないことなのだろう。
今はBluetoothで専用アプリを入れたスマホと連携し、国を跨いだ移動でも瞬時に時刻を修正するなんて機能も入ってるし、心臓部にトルクのあるデュアルコイルモーターを搭載しているのも自慢らしい。そう思うとなぜか急に身近に感じられて、僕は鳳凰がかわいく思えてきた。
被写体とスタジオで向き合っている時、一番意識するのはこの製品を作った人の主張だ。その声が聞こえたら、僕はそれをできる限り写真に反映するのが信条だ。
ずいぶん長くそんな仕事をしてきたので、鳳凰の素性の良さはよく分かる。
縦と横に走るアンバー系のクロス。これが鳳凰のデザインの一番推したいところだろう。ケースとベゼルが別体であることから可能になった処理なのだそうだ。
なるほど、別体であることを示す4本のビスが存在感を示している。あと、側面に設置されている4つのボタンがまたいい味を出している。このアンバー系のクロスにさらにクロスをかけてくるのだ。
鳳凰のコンセプトは“色”だろう。撮影していて目まぐるしいほどの色の錯綜だ。だが統一はちゃんととれていて、その法則性を読み解くのが楽しかったりする。
例えば側面の左側のケースのペイントは上からブルー→レッドで、逆に右側はレッド→ブルーだ。ただそれだけのことなのだが、細かいところへのこだわりが心地いい。
正面から撮影していて、これだけ沢山の色があって、それでいてある調和がとれている時計はほとんどないだろう思った。“色物”とは違う、基本を押さえているデザインだからだ。
ブルーとアンバー、これは鉄壁の色使いだ。だから派手なのに落ち着くデザインになっている。
文字盤のカラーも独特だ。ファインダーをのぞいているとクラクラするぐらい多彩な色が使われている。ベゼルのブルーよりもう少し深いブルー。それに赤、ピンク、黄色、グリーン。これらは視認性を上げるために効果的に使われている。それでも全体の統一感は失っていない。メーカーは「マルチカラー」と呼んでいるが、こういう色の遊びも楽しい。
わざと露出を絞って赤系の色を強調してみた。夕暮れで見る鳳凰が実感できるだろう。鳳凰は時間によっても色々な顔を見せる。どこにも破綻のない完璧な作り込み。これが日本のものづくりなのかもしれない。
ここまで被写体に寄ると、その本性が見えてくる。鳳凰とは何者だったのか。単なる思い付きで製品化された物ではない。「G-SHOCK」の表面に施されたレインボーIP。それは長い歴史を背負った新しい挑戦だったのかもしれない。
もっとすごいのが、あちこちに散りばめられた鏡面仕上げだ。撮影していてほれぼれするほど美しい。これを強調するために、その横にはヘアライン仕上げがちゃんとデザインされている。
どうやら僕は「鳳凰ワールド」に取り込まれたようだ。撮影していてこんなに楽しい思いは久しぶり。細かい部分を繊細にデザインしてゆく、金属という素材を知り尽くした手際がこちらに伝わってくるのが心地良い。作った人との対話。その意図を読み解きながらの撮影は本当に楽しい。
竜頭(りゅうず)部分、側面の4つのボタン、さらにケースとベゼルを留めている4つのビス。合計8個の金属がベゼルを取り囲んでいる。普通こんなことをしたら賑やかすぎてデザイン的に破綻(はたん)しそうなものだが、そこはブルーとの相性の良いアンバー系の無垢の金属(真ちゅうだろうか)をさりげなく配置してバランスを取っている。このゴツゴツした感じも本体との対比として成功しているだ。
鳳凰には楽しませてもらった。こんなことがあるから写真は楽しい。
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