カプコンのゲームIP戦略に変化 「バイオハザード」に“身長280cm美女”が出る背景
カプコンが発売した「バイオハザード ヴィレッジ」「モンスターハンターライズ」。いずれも人気シリーズの最新作だが、これまでの作品とは違いがある。2作の特徴を基に、カプコンのゲームIP戦略の変化を読み解く。
カプコンが5月に発売したゲーム「バイオハザード ヴィレッジ」。人気シリーズ「バイオハザード」の最新作で、全世界累計での売り上げは400万本(5月27日時点)を超えている。ゲームの内容もさることながら、特に話題になったのは「ドミトレスク夫人」というキャラクターだ。
ドミトレスク夫人はゲームに登場する“ボスキャラ”で、身長が280cmあるインパクトの大きな外見が話題に。彼女の身長を公開したときのツイートには数千の「いいね」が集まった他、SNS上では国内外を問わずコスプレ画像やファンアートの投稿が続出。叶姉妹までコスプレ画像を投稿した。
しかしカプコンといえば「ストリートファイター」のリュウや「モンスターハンター」のリオレウスなど、“渋め”な印象のキャラが多い。中には「ロックマン」のようなキャラもいるが、任天堂のピカチュウやカービィに比べれば万人受けはしにくいだろう。
そんなカプコンが、なぜドミトレスク夫人のようなキャラクターが登場するゲームを作るのか。その背景には、同社が掲げるIP戦略がある。
ライター:Jini
作家およびジャーナリスト。ビデオゲームと(しての)ポップカルチャー。 3000万回読まれたゲームブログ「ゲーマー日日新聞」編集長、note「ゲームゼミ」主宰、出演:TBSラジオ「アフター6ジャンクション」、NHK「あさイチ」他、著書:『好きなものを「推す」だけ。
不発の目立ったカプコンのIP戦略
今やカプコンは、任天堂に次いで日本を代表するゲーム企業の一社だ。
任天堂の人気に関しては、詳しく論じるまでもないだろう。自社ハード「Nintendo Switch」を約8500万台売り上げ、「あつまれどうぶつの森」(累計3263万本)「リングフィットアドベンチャー」(同1011万本、いずれも5月時点)など、ソフトでもヒットに恵まれた。
一方のカプコンも、2017年に発売した「バイオハザード7」が約850万本、18年の「モンスターハンター:ワールド」が約1680万本を売り上げるなど、ソフトに限れば任天堂に次ぐヒットが続いている。モンスターハンター:ワールドはCESAが主催する「日本ゲーム大賞」、19年の「バイオハザード RE:2」は英国のゲームアワード「Golden Joystick Awards」を獲得するなど、ゲーマーからの評価も高い。
しかしIP戦略については両社の差は大きい。任天堂は19年、渋谷にグッズショップ「Nintendo TOKYO」をオープン。21年には大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンに「スーパー・ニンテンドー・ワールド」を開園するなど、ゲームソフトのみならずその世界観やキャラクターを活用した展開を見せている。
一方のカプコンも、グッズショップ「CAPCOM STORE TOKYO」を19年に渋谷でオープンしたり、映画「モンスターハンター」を20年に公開したりと、IPの活用方法こそ探っているものの、成功しているとは言い難い。
例えば映画のモンスターハンターは、6600万ドルの予算を投じたにもかかわらず、日本をのぞく地域で3100万ドルの興行収入しか得られない結果に終わった。CAPCOM STORE TOKYOにも実際訪れてみたが、客足こそあるもののNintendo TOKYOほどの盛り上がりはないように筆者は感じた。筆者が見た限り、客層は中高生から大人の男性が中心で、女性客や子供もNintendo TOKYOに比べると少ない。
原因はやはり、活用できるキャラクターの層にあるだろう。カプコンはストリートファイターや「ロックマン」など魅力的なIPを持っているものの、ここ10年はモンスターハンターや「戦国BASARA」を除いて進展に乏しい。また、どちらもたくましい男性やモンスターが中心のため、任天堂のような幅広いアプローチが難しいとみられる。
とはいえ、今やIPの活用はゲーム業界における重要な財源だ。米Sony Interactive Entertainment Americaの元会長であるショーン・レイデン氏によれば、近年ゲームの開発費は年々増加しており、大手企業が開発する場合は1本当たり8000万〜1億5000万ドル近くになるという。
これだけ莫大な予算を投じて作ったゲームは「ヒットして当然、コケれば即倒産の危機」というプレッシャーにさらされる。一度開発したゲームはゲームソフト以外に、グッズや映像化などのIP戦略で二重、三重にマネタイズすることが求められるようになった。
こういった状況を受け、カプコンの辻本春弘COOは19年、成長戦略の頭として「IPからの収益最大化を追求」を掲げた。21年5月にはセガも「既存IPのグローバルブランド化」を軸として「休眠状態のIPを活用する」方針を発表するなど、ゲーム開発とIP展開は車の両輪のような関係として認識され始めている。
「モンハンライズ」「ヴィレッジ」ではIP展開を意識?
では、こういった動向を踏まえて、カプコンが最近リリースしたゲームを見てみよう。
例えば、21年3月に発売された「モンスターハンターライズ」には「ヒノエ」と「ミノト」という双子のキャラクターが登場する。大和撫子のような佇まいにもかかわらず、背丈よりも大きな弓と槍でモンスターに立ち向かうギャップに、男女問わず人気が集まった。ドミトレスク夫人と同様、ファンアートなどの投稿が国内外で相次いだ。
モンスターハンターといえば、シリーズ累計6500万本を売り上げる大人気シリーズだ。しかしグッズ化の中心はリオレウスなどのドラゴン型モンスターや、「アイルー」という獣人で、人型のキャラクターは少なかった。プレイヤーが操作するキャラの装備「女性用キリン装備ハンター」はグッズ化されるなど人気があったが、あくまでアイテムにすぎず、横展開には向いていなかった。
ところが新作では、アニメ「鬼滅の刃」で竈門(かまど)炭治郎役を務めた花江夏樹さんなどの声優陣が登場人物の吹き替えを担当。個性豊かなキャラクター同士でストーリーが展開するなど、人間に注目したストーリー展開がみられた。
ドミトレスク夫人が登場するバイオハザード ヴィレッジも例外ではない。バイオハザードシリーズを代表する人気キャラクターといえば「ジル」や「クリス」といった90年代からシリーズを支えてきたキャラクターで、「バイオハザード7」に登場する「ファミパンおじさん」ことジャック・ベイカーを除けば、昔ながらのヒーローに依存し続けてきた傾向にある。
一方、最新作の序盤では「マザー・ミランダ」というキャラクターを中心とした「四貴族」という集団が登場。人形使いの「ドナ」、半魚人の「サルヴァトーレ」、筋肉質な「ハイゼンベルク」、そして身長280cm近いドミトレスク夫人など、個性的な見た目の敵キャラクターが、ややコミカルな展開で捕えた主人公をどう処分するのかという議論を繰り広げた。このように、新しいゲームでは、IPの展開を意識したとみられるキャラクターや演出が増えている。
だからといって、ゲームの内容がおろそかになっているわけではない。モンスターハンターライズは発売10日で500万本、バイオハザード ヴィレッジは発売3日で300万本を売り上げた。筆者も両作ともにプレイしたが、単にストーリーやキャラクターが魅力的なだけではなく、ゲームデザインがしっかりと組み立てられており、老舗カプコンの強みがいかんなく発揮されていたことに感銘を受けた。
これまでゲームは人気だったものの、IP戦略はバラエティに乏しかったカプコン。しかし新作を見るに、その傾向も少しずつ変わりつつある。ゲーム自体が人気なこともあり、今後はこういったキャラクターのグッズ化や映像化が増えていくのではないだろうか。
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