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インタビュー

鉄道のJR東がバス自動運転に取り組むワケ(2/2 ページ)

今後数年をめどに運転支援などへ導入するとして、バスの実証実験について実証実験を進めるJR東日本。傘下にバス会社も持つとはいえ、鉄道会社のJR東日本がなぜバスの自動運転に取り組むのか。実証実験の全体像を振り返りつつ、JR東日本の狙いを説明する。

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JR東がバス自動運転の実証にこぎつけられた理由

 鉄道会社であるJR東日本にバス自動運転に取り組む理由はあっても、それを実現する技術が初めからあったわけではない。これは、日本で自動運転の技術開発に取り組む9社の技術をかき集めて、一つの形にしたものといえる。

 同社は2015年にオープンイノベーションプログラムを始め、新サービス実現のための技術開発に協力する企業を広く募ってきた。その結果が実ったということだ。

 この技術実証は18年度にスタート。まずは気仙沼線と同じくBRTへ転換した大船渡線で400mの短距離から検証を始め、19年度は気仙沼線の柳津駅〜陸前横山駅へ舞台を移し、最高時速60kmで一区間を走行する技術を実証。21年1月には、前2回の技術実証の成果を踏まえ、JR東日本の営業車両をベースとした自動運転車両を製造した。その車両が、今回(2021年度)の実証実験で初めて活用された車両だ。

 今回の実証実験に使ったシステムは、先進モビリティ、愛知製鋼、京セラ、京セラコミュニケーションシステム、ジェイテクト、ソフトバンク、日本信号、NEC、BOLDLYの計9社が自動運転関連技術をそれぞれ提供し、一つに統合したものだ。

各社の役割

 JR東日本はBRT路線を技術検証用に提供し、運行事業者として要求仕様を見極め、各社の技術を取りまとめる。自動運転制御は先進モビリティと愛知製鋼が開発した技術を採用。これはあらかじめ道路に敷設した磁気マーカーを読み取って自動運転車を制御するという方式で、特定の区間を定期的に運行するような自動運転システムを想定して開発されたものだ。


道路に埋め込まる磁気マーカー。磁気マーカーの取得漏れがあった場合の補正用として、数カ所に1つRFIDも内蔵されている

 自動運転のための制御データの作成に当たっては、NECの技術が活用された。同社は道路情報の設計図面から線形情報や勾配を電子データに変換し、自動運転用の車両運行データとして規格化する技術を提供した。

 自動運転車両はJR東日本が気仙沼線BRTで営業車両をベースに、ジェイテクトの自動制御システムを組み込んで自動運転制御に対応した。自動運転の運行管理システムには、ソフトバンク傘下のBOLDLYが開発した「Dispacher」を利用している。

 京セラは高速道路向けの無線規格ITSを使った機器を提供する。これは、運行経路上の不慮の障害物を検知して、自動運転車両を停止されるためのもの。さらに、先進モビリティの障害物検知技術を用いて、車両に組み込まれたLiDARや赤外線カメラ、ミリ波レーダーなど各種センサーの情報から、車両単体で支障物を認識することも可能とした。


トンネルの先など、車両側から認識しづらい障害物を路側機で認識。車両にITS無線を通じて情報を伝送する

 気仙沼線BRTにおける自動運転システムとしては磁気マーカーを用いた運行システムと、専用道に誤って侵入した歩行者、自動車や動物を検知して自動停止するシステムさえあれば成立する。一方で、技術実証の中では京セラ製の路側監視システムと、車両側が搭載するミリ波レーダーやLiDAR、赤外線カメラ、ステレオカメラなどさまざまな障害物検知のためのレーダーも備えるなど、機能が重複する障害物検知の仕組みもある。

 若干オーバースペックに思える部分もあるが、それは現時点ではさまざまな要素技術を検証し、商用化に向けて有望な技術を選定するという意味合いもある。

 そして、さらに先の一般道も含めた自動運転バスでの運行も視野に入れているという。そのための要素技術の一つとして、ソフトバンクが提供している高精度位置測位システム「ichimill」も搭載された。

 無人運転の実現のためには、車両内での異常を検知するための仕組みも必要となる。車両内部にはカメラを配置し、乗客の状態をリアルタイムでモニタリングできる仕組みを用意した。この映像伝送のために、通信環境の確保が難しい狭いトンネル内での通信も確保できるよう、法人向けの通信規格「プライベートLTE」による無線中継システムを構築した。これには京セラコミュニケーションシステムが製造している機器を活用している。

 浦壁氏は「将来的にどのような形で実装するかは未定だが、まずは運転支援の仕組みとして導入し、できるところから初めていきたい」としている。


JR東日本で新規事業を担当する浦壁俊光執行役員

 ただ、バス専用道だからといって一般道とは完全に別物かといえばそうではない。気仙沼線や大船渡線のBRTシステムの一部には一般道を経由するものもあるからだ。BRT転換後には、バス停の設置だけで経由地点を追加できる運用面の柔軟さを生かして、地域の病院を経由するルートを新設した例もある。

 つまり、これらのBRTで自動運転システムを導入する場合、一般道での自動運転についても視野に入れる必要がある。その点について浦壁氏は「公道へのBRTシステムのための設備導入や安全面での対策など、地域の理解が必要となるが、導入するからには一般道を含めた全線への展開を目指していきたい」と展望を示した。

すでにある鉄道路線を敷き替えるほどの優位性はない

 自動運転BRTの運用面でのコストについては、ローカル線で鉄道を運行するコストに比べると大幅に抑えられる可能性がある。BRT専用道のメンテナンスにかかる費用は、鉄道路線の整備と比較すると大幅に低減できる他、車両制作コストも、在来線鉄道車両は一般的に1車両あたり1億円程度の製造費用がかかるとされているが、自動運転バスの車両の費用は量産が進めばその半額程度に収まる可能性があるという。鉄道と比べて製造できる事業者が多いバスの場合は、より量産しやすいという点でも利点はある。

 しかし、専用道の整備のためには大きなイニシャルコストがかかる。その点も考慮すれば、すでに鉄道が存在している地域でBRTへと転換する可能性は大きくはないだろう。

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