筑波大ら、「ホウ素」と「硫黄」から新たな半導体 電子デバイスへの応用に期待
筑波大学などの研究チームが、ホウ素と硫黄から構成される物質「硫化ホウ素シート」という新しい半導体物質の生成に成功した。今後、電子デバイスの半導体部品としての利用など、幅広い分野への展開が期待できるという。
筑波大学と東京工業大学、高知工科大学、東京農工大学、名古屋大学、高エネルギー加速器研究機構の研究チームは10月28日、「ホウ素」と「硫黄」から新しい半導体物質の生成に成功したと発表した。今後、電子デバイスの半導体部品としての利用など、幅広い分野への展開が期待できるという。
ホウ素化合物はさまざまな安定構造を示すことが知られており、硫黄と1:1の割合で構成される「硫化ホウ素シート」が原子4層程度の厚みで安定な構造を取ることも理論的に予測されていた。この化合物は構造によって、超電導性や半導体の特性、熱を電気に変える「熱電性能」など、さまざまな性質を持つとも考えられていたが、実際に合成した例や観測報告はこれまでなかったという。
研究チームでは、「菱面体硫化ホウ素」という層状の物質をまず合成。この化合物はもこれまでに数件しか合成報告がなかったが、高圧・高温環境から室温まで急冷することで合成できたという。これを剥離することで硫化ホウ素シートの生成に成功した。
菱面体硫化ホウ素の走査電子顕微鏡(上段)と、電子線マイクロアナライザー観察(中段・下段)の結果。黄色は硫黄、緑はホウ素の部分で両者が電子顕微鏡像と同じ形をしていることから、観察している試料が全て硫黄とホウ素で構成されていることが分かる
このシートを重ねると、電子のエネルギー差である「バンドギャップ」が最大で1.0eV(エレクトロンボルト)変化したという。
硫化ホウ素シートは軽い元素から構成されており、非常に薄いため、サイズの微小化が求められる電子デバイスなどで新しい半導体部品となる可能性がある他、太陽電池や光に反応するセンサーの材料などへの応用も考えられると研究チームは説明する。
この研究は、学術雑誌「Journal of Materials Chemistry A」に10月27日付で掲載された。
【訂正履歴:2021年11月2日 午後0時5分 研究の中心人物が筑波大学の出身であったため、タイトルや一部表現を修正しました。また、一部間違えた情報を掲載していたため、該当部分を削除しました。おわびして訂正いたします。】
【訂正履歴:2021年11月2日 午前11時50分 初出時、主語を東京農工大学のみとしていましたが、実際は複数の研究機関による共同研究でした。また、一部間違えた情報を掲載していたため、該当部分を削除しました。おわびして訂正いたします。】
関連記事
- IntelのゲルシンガーCEO、「半導体不足はあと2年続く可能性がある」
Intelのパット・ゲルシンガーCEOが「Computex Taipei」で基調講演に登壇した。講演の中で、現在の半導体不足はあと2年続く可能性があると語った。 - Raspberry Pi 4、半導体不足で10ドル値上げ 1GBメモリ版を35ドルで再販へ
英Raspberry Pi財団は半導体不足により、Raspberry Pi 4の2GBメモリモデルの価格を35ドルから45ドルに、一時的に値上げすると発表。併せて、販売を終了していた1GBモデルを35ドルで再販する。 - Samsung、人の脳を半導体チップに“コピペ”する研究を発表
韓国Samsung Electronicsは、米ハーバード大学と共同で、人間の脳の構造を1つの半導体チップにコピー&ペーストする研究を行っていると発表した。 - 「送電線の下はチョウの楽園」 農工大などの調査で明らかに
「送電線の下はチョウの楽園」――東京農工大学、東京大学などの研究チームがこんな調査結果を発表した。日本の人工林を通る送電線周辺は定期的に伐採が行われ、草地になっているため、草原を主な生息エリアにするチョウが、周りの樹林などより多くいたという。 - 農工大、「フォートナイト」内でオープンキャンパスを実施 ゲーム内に大学の校舎を再現
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.