風船のように膨らむ“柔らかいEV” 持ち運べる低コストな乗り物がもたらす価値:DCEXPO 2021
東京大学の川原研究室と新山研究室、mercari R4Dなどの研究チームは、「DCEXPO 2021」に、風船のような柔らかい素材で作る新しいモビリティ「poimo」を出展している。風船のように空気で膨らましたボディーに車輪とモーター、バッテリーを加えて簡易なモビリティとして使える。
東京大学の川原研究室と新山研究室、mercari R4Dなどの研究チームは、デジタルコンテンツ技術の展示会「DCEXPO 2021」(幕張メッセ、11月17-19日)で、風船のような柔らかい素材で作るモビリティ「poimo」を出展している。風船のように空気で膨らましたボディーに車輪とモーター、バッテリーを取り付けて簡易なモビリティとして使うことを目指している。
風船状のボディーは、「ドロップスティッチファブリック」という布と樹脂の複合素材でできており、中にはひも状のビニール繊維が張り巡らされている。このため、高圧状態でも横に膨れることなく人間を支える強度を維持できるという。モーターやバッテリーなど必要なパーツを取り付けるだけで人間が移動できる乗り物が完成する。
市販の電動ポンプで膨らますことができ、空気を抜けばビニールプールのように畳んで収納できる。軟材質のため金属やプラスチックと比べて周囲への安全性も高い。電動スクーターの形をした初期プロトタイプのボディーは約2.7kg。タイヤやモーター、バッテリーなどトータルで11kgほどになるが、持ち運べない重さではない。
poimoの大きな特徴は、膨らむ/萎む以外に、ユーザーに合わせて形状をカスタマイズしやすいところにある。生地をパターン(型紙)に沿って加工するため自由度も高く、体形に合わせたり、障害のある人でも乗れるよう、その部分を支えるデザインに変更したりして、誰でも乗れるモビリティを実現する。「走るベンチ」なんかも作れてしまうという。
コスト面でも有利だ。金型が不要な他、素材も安価のため他のモビリティと比べると製造コストを抑えられる。大半はモーターとバッテリーが占めるという。
自動車向け部品メーカー出身という研究員に聞くと、自動車業界では素材の経年変化の観点からpoimoのようなモビリティは実現が難しく、展示すると業界関係者から「うちでも出したかった」との声をもらうようだ。金属やプラスチックと比べると劣る部分ではあるが、軽量/可搬性/低コストとトレードオフだろう。
実際にスクータータイプのpoimoに跨ってみたが、金属やプラスチックのボディーより柔らかいとはいえ、ボディー自体は強度をもたせるため張りがあって意外と硬い。跨っただけだとふらつきがあるが、ある程度の速度になると安定するという。一方、椅子タイプは安定度が大幅に増す。複数のボディーをマジックテープで連結した構造のため、中心部分のみ気圧を下げて座り心地を改善している。
椅子タイプのコントローラー。クッションの先端それぞれに静電容量式の圧力センサーが内蔵されており、移動したい方向の先端を握ると動く。真っすぐ進みたい場合は両端を握る。ぬいぐるみなどでもコントローラーにできるという
poimoは6〜7km程度の移動を想定しており、公共交通機関と目的地をむすぶ「ラストワンマイル」に最適としている。別途実施した体験会では、高齢者や子ども向けのモビリティとして高いニーズを実感したという。特に電動車いすを使う高齢者からは、自由な形状が「電動車いすっぽくなくて良い」との評価を受けたようだ。
先述の研究員によると、実用化に向け、電動車椅子と同じ時速6km以下で走るモビリティとして、公道を含めたフィールドテストを検討中としている。
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