SaaS企業なのにおじさん幹部がネイル研究? 「2Cか2Bか」で迷走した電子マニュアル事業者の決断(2/2 ページ)
B2B SaaS企業として勢いを増すスタディスト。実は法人向け一本でやってきたわけではなく、過去には個人向けサービスを提供しつつも迷走が続いた“黒歴史”もあったという。同社は迷走期をどのように乗り越え、法人向けに的を絞るまでに至ったのか。
「君たち、ネイルやりたいわけじゃないんだろ」
本来の事業とは関係の薄い分野に手を出し、迷走を続けたスタディスト。同社が本来目指していた「法人向けサービスの提供」という目的を思い出し、軌道修正できたのはなぜか。きっかけの一つはとある展示会で外部の専門家にかけられた言葉だったという。
「『君たち、ネイルやりたいわけじゃないんだろ、法人向けサービスをちゃんと頑張ったほうがいいよ』と言われた。当時の自分たちは素直ではなくすぐには受け止められなかったが、後になって考えるとすごく正しかった」
実際、ユーザーや他の外部アドバイザーからも「同じプラットフォームで個人向けと法人向けを両立させるのは無理がある」という声が出ていたという。これを受けたスタディストは13年に法人向けサービスとしてTeachme Bizをリリース。一方のTeachmeはしばらく提供を続けたが、段階的にサービスを終了させ、法人向けに一本化した。
2C時代の名残りがUI/UXに好影響 一方で価格設定に課題も
迷走の果てに本来の方針を取り戻したスタディスト。現在は業務や人材育成を効率化するツールとして、まいばすけっとや日本航空、すかいらーくといった企業にも提供しており、アカウント数も約28万(20年9月時点)まで増えた。ただ、法人向けに一本化したからといって全てが順調だったわけではなく、時には個人向けに提供していたときの経験や積み重ねに助けられることもあった。
例えばUI/UXといった面では、個人向けに提供していたころ、ユーザーから頻繁にフィードバックを集め、改善を繰り返していたため、今でもユーザーに「使いやすい」と褒められることがあるという。
一方で、個人向けのときにはなかった課題も浮き彫りになった。サービスの価格設定だ。当初は無料のサービスとして提供していたことから、法人向けの価格感がつかめない時期もあったという。
「法人向けはユーザーと導入を決める人が違うので、会社の中の利害関係者を全員納得させるプロセスが難しい。企業規模の問題もある。法人向けとひとくくりにすると間違いが起こるくらい会社の規模によって状況が変わる。最初は中小企業をメインにしており、安い価格設定にしていたが、エンタープライズ企業相手のときに『安すぎて不安』といわれて驚いた」
「的を絞るのが大事」 迷走の果てに得た気付き
紆余曲折しつつも法人向けのサービス提供を続けるスタディスト。庄司副社長は一連の黒歴史で得た気付きについてこう話す。
「結論としては、的を絞るのが大事だなと思った。個人向けにしろ法人向けにしろ、体力のないベンチャーでは消耗戦になる。遠回りせず、(企業の)強みとか、経営者がやりたいと思っていたテーマを愚直にやるしかないと考えている」
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